2009年12月29日火曜日

博士の価値,か・・・

最近すっかりTwitterにハマってしまい,ブログを書く頻度が大幅に減ってしまいました.しかし,やはり誰かがつぶやいていたのですが,Twitterで誰とでも気軽にコミュニケーションができるようになったからこそ,アーカイブとしてのブログの存在はますます重要になっていきます.というわけで,今日はTwitter上であった議論を一つ紹介したいと思います.

事の発端は,嫌煙について何人かの人が話していたときでした.当初はごくありふれた議論が進んでいたのですが,化学リスクの専門家を自称するNPOの代表が加わってから,議論がおかしくなっていきました.彼は極端な嫌煙論者のようで,“化学”・“生理学”・“薬理学”などの観点からタバコのリスクについてヒステリックとも思える主張を展開していました.

プロフィールによれば,彼は化学物質の毒性評価に関する研究によって博士(農学)の学位を取得しているようです.要するに,プロの科学者(化学者)というわけです.しかし,彼の議論には科学者として致命的な問題がいくつかありました.

まず,彼は(自称)化学者らしく,タバコのリスクをニコチンの化学構造や生体内での機能の観点から論じていました.例えば,ニコチンの害について論じるのに「AChレセプターに対する真のリガンドは言うまでもなくアセチルコリンであって、それ以外のゼノバイオティクス(筆者注:ここではニコチンのこと)は全てダミーということです。」といった具合です.これではタバコがアセチルコリンのレセプターに作用して喫煙者に快楽をもたらすことを主張できても,タバコのリスクを主張することはできません.タバコのリスクを主張するなら,喫煙習慣に関する疫学的な研究例を引用すべきです.自らの専門分野に固執するあまり,要素還元的な論法から抜けられないようです.

次に問題だと感じたのが,他者とのコミュニケーションに対する彼の姿勢です.彼はよほど自分の主張を曲げたくないのか,自分の主張に対して反論が来ると,議論の主題などお構いなしにその主張の曖昧な点や弱い点を突こうとします.論理のすり替えです.このようなやり取りで議論がまとまるはずがありません.

これだけならまだいいのですが,私がもっとも許せないと感じたのは,彼の傲慢さです.彼は「博士(農学)」「化学リスクの専門家」という肩書(自称を含む)を盾に,他人の意見をすべて否定するばかりか,他人をバカにさえします.にもかかわらず,ウェブサイトやツイートの履歴を読むかぎり,彼はこれらの肩書を顧客への訴求点としているようです.自分の無知を棚にあげて,肩書きを盾に異なる意見を排除し,自分の主張を通すというわけです.

欧米に比べて民間・NPOで活躍する博士号取得者が少ないため,問題解決の現場と研究者の乖離が日本ではしばしば問題にされます.したがって,博士号取得者が専門家としてNPOを主宰することは,本来歓迎すべきことのはずです.しかし,議論やコミュニケーションの姿勢に問題があるばかりか,博士の肩書きを自分の権威としてむやみに利用するという彼の態度は,PEMコースの履修生として,とても残念に思います.

大学院に在学しているとあまり意識しないのですが,世間で博士号の取得者は特定の分野に関する高度な専門家と評価されます.しかし,彼のように博士の権威をむやみに利用する人をみると,博士の価値って何なのだろうと思います.彼はやや特殊な例かも知れませんが,現場で「使えない」と言われている博士の多くは,彼のように能力に偏り・問題があるが博士号を盾に威張っているという例が,多いのではないでしょうか.PEMとして,どうかそのような博士にはならないよう,自分への教訓としたいと思います.

ちなみに一連の議論は,本気で怒った私がうっかり彼を言いくるめてしまったために(こういう人を言いくるめるやり方があるのです),彼の方から議論を遮られてしまいました.これもコミュニケーションのやり方として良くなかったと反省しています.環境問題の現場では,様々な考え方や価値観を持った人たちと本気で対話していく覚悟・スキルが常に求められます.実際,私は環境問題の現場で仕事をされている方と何度か今回のような不毛な議論をした苦い経験があります.今回も(また)失敗してしまいましたが,こうした教訓を積み重ねていつかは成長していきたいものです.

2009年12月24日木曜日

里山・里海って・・・?

しばらく更新が滞っていました.21~23日までの3日間は,仙台で開催された日本における里山・里海のサブ・グローバル評価(里山里海SGA)の会議を,生態適応GCOEのツテで手伝わせてもらいました.

里山里海SGAとは,国連が提唱して2001~2005年に行われたミレニアム生態系評価(MA)の続きとして,日本の里山・里海を対象に生物多様性と生態系サービスの評価を行おうという計画で,2010年10月に名古屋で行われる生物多様性条約COP10での公表が予定されています.

手伝い人の私がこの会議の内容に言及するのはあまりよくないので,差し障りのない範囲で感想を述べたいと思います.

SGAは基本的にMA-SGAの枠組みを踏襲するので,この報告書では里山・里海の現状と傾向・対応の評価・将来のシナリオの,大きく分けて3つの要素について評価が行われる予定です.来年のCBD/COP10でのレポートの公表を控えているということで今回の会議では,これまでに国レベルの専門家が評価した結果とその枠組について,議論が行われました.里山・里海の現状と傾向の部分ではさらに,里山・里海の定義・生態系サービスの変化の現状と要因…などなどについて,かなり突っ込んだ議論が行われました.

この会議の議論をずっと聞いていて思い浮かんだのが,里山・里海って何なのだろうという素朴な疑問です.「里山」という単語をから私が思い浮かべるのは,新潟(特に上・中越地方)の山村地域のような,タケノコ・山菜が採れる山があって,田んぼがあって,あまり大きくない川があって,池があって…,というイメージです.これがいわば,私のなかの「里山」の原風景なのでしょう.一方,「里海」というのは聞き慣れない言葉ですが,強いてあげるとすれば磯とか小さな漁村とかがあるような風景でしょうか.具体的には,新潟の山北町の海岸線のイメージですね.

ところが,様々な議論を聞くなかで,人間が関わっているという点では共通しているものの,空間的な広がり・そこに含まれる要素・機能など,里山・里海の定義・解釈がきわめて多様であるということに驚きました.最終的にここで議論された結果がどう位置づけられていくかは,来年10月のCBD/COP10以降です.今後も注目していきたいと思います.

もう一つ興味深かったのが,里山里海SGAをどうやって日本国外に向けて発信していくかという議論でした.これについても目からウロコな重要な議論がいくつもありました.これもやはり,CBD/COP10以降の動向が気になります.

3日間の会議の半分くらいは,各章ごとに執筆者と関係者の分科会が行われました.私もとある分科会をお手伝いしつつ議論を聞いていたのですが,なかなか楽しい議論でした.この議論を踏まえて最終的に発行されるレポートがどうなるか,楽しみです.

まだまだ書きたいことがたくさんあるのですが,それらは来年10月のCBD/COP10までのお楽しみ,ということで.

会議が終わった後は,この会議に共同議長・専門家として国連環境計画(UNEP)から来られた2人のゲストを連れて,鳴子温泉に行きました.ここでもいろいろ興味深い話を聞かせてもらいました.話の内容と英語についていくのが大変だったのですが,いい経験をさせてもらいました.

2009年12月11日金曜日

「ゲノムと生態系をつなぐ」か・・・

12月7~9日にかけて,長野県・菅平高原で行われた研究集会「ゲノムと生態系をつなぐ進化研究-環境変動・集団履歴・適応」に参加してきました.総研大の印南秀樹さん山道真人さんによるコアレセント理論の講義・実習や,20名以上の研究者によるエコゲノミクス関連の刺激的な研究発表など,盛りだくさんな3日間でした.私自身も久しぶりにこの分野の最先端の話を聞けて,大いに刺激を受けました.

今回の集会の一番の収穫は,コアレセント理論にもとづいて遺伝子の多型情報から集団のデモグラフィーや選択の履歴を推定する一連の手順と背景となる理論を理解できたことでした.これまで,教科書やセミナーなどで断片的な知識くらいは持っていたのですが,そこから実際にどうやって応用していいのかよく分かっていませんでした.それが,印南さんの丁寧なレクチャーのおかげで,基本的な部分や実際の多型データへ適用まで,だいぶ理解できたと思います.

それに続く山道さんのレクチャーでは,簡単なモデルを例にパラメータ推定の手順をわかり易く紹介してもらいました.これについては,今回届いた日本生態学会誌59(3)の連載「始めよう!エコゲノミクス」の記事「集団内変異データが語る過去:解析手法と理論的背景(その1)」に簡潔に紹介されていますので,興味がある方はそちらを参照してください.

関連研究発表では,エコゲノミクスに関連して,局所適応・遺伝構造・表現型可塑性・遺伝子発現・ゲノム構造などについて,未発表データや研究計画を含めた刺激的な議論が続きました.今回は分野外ということもあってあまり積極的に議論には加われなかったのですが,その分視野を広げてもらった気がします.自分では大した研究をしていないのですが,こうやっていろいろな人が面白いことを教えてくれるのは,ありがたいことです.

個人的に一番面白かった発表は,浜松にある東大附属水産実験所の菊地潔さんによる,フグ類の様々な形質マッピングに関連した一連のお話でした.フグという生き物の面白さはもちろんのこと,地方の実験施設の1研究室であれだけの量・質のデータを出されているというのは,同じ田舎で研究している自分にとって,とても勇気づけられるものでした.見習いたいものです.

しかし,今回の研究集会をふりかえってみて,改めて自分自身の研究はもう「分子生態学」とは言えなくなってしまったなぁと感じました.遺伝マーカーを使った親子解析の研究は5年くらい前から時代遅れになりつつありましたが,みなさんの発表を聴いて,もう完全に「分子生態学」の枠組みから外れてしまったことを実感しました.もちろん普通の(保全)生態学の研究としてはまだまだやっていけるとは思っているのですが,いずれ新しい視点や技術を取り入れていかねばです.

もしこのまま研究者を続けていくなら自分自身がどう振舞うべきか,いろいろ考えさせられる集会でした.

2009年12月3日木曜日

Google IMEを使ってみた

Googleが今度は日本語入力システムを出したらしいという情報を,Twitterで知りました.概ね好評なようだったので早速ダウンロードして試してみようと思ったのですが,日本語の文章を入力する用事がなかったので,とりあえずブログを書くことにしました.

さて,ほんの少しだけ使ってみた感想ですが,まず予測変換がMS-IMEよりもずいぶん利口だなと思いました.上のパラグラフを入力するときに,「ためして」と入れたら予測変換の候補に「試して」「ためしてガッテン」と表示されました.「ためしてガッテン」の「ためして」は平仮名で書くのが正しいのですが,MS-IMEではおそらく「試して|ガッテン(合点・画展)」と“普通に”変換されると思います.この辺の固有名詞をしっかり押さえているあたりはさすがGoogleです.

また,ウェブから単語を拾ってデータベースを作っているせいか,MS-IMEでよく誤変換される単語がほとんど入っているのにも感心しました.マニアックな単語では,林木育種の専門用語で「精英樹(せいえいじゅ)」という言葉があるのですが,これが一発で変換されました.あと,若手研究者のあいだでよくネタにされる「がくしん→が苦心」も一発で「学振」と変換されました.素晴らしいです.

ただ,MS-IMEではまぎらわしい単語を変換するときは候補ウィンドウにそれぞれの単語の定義が表示されたのですが,Google IMEではそれが出てこないのだけは物足りないかなと思いました.あと,構文解析もまだMS-IMEの最新版の方が若干上かなと感じました.ベータ版ということなので,これからの発展に期待したいです.

2009年12月2日水曜日

やる気がでないときのために

先々週はめずらしくブログをまじめに書いていたのですが,先週はまだ中身を公開できないディスカッションが多かったり,生産的じゃない考え事をしていたので,ブログのネタがありませんでした.いや,ブログに書くようなネタはいくらでもあったはずなのですが,ブログを書くほどのやる気がでなかったというのが本当のところでしょう.

私はブログで生計を立てているわけではないので,ブログを書くやる気がでないことくらい大したことはないのかも知れません.しかし,もしこれが研究活動や自己研鑽に対するやる気がでないばかりにそれらが停滞してしまったら…,それは私に対する評価を下げることになり,いろいろなチャンスを失うことになるかも知れません.

そんなことを考えていたらちょうど面白そうな本が出たので,買ってみました.どんな時代もサバイバルする人の「時間力」養成講座 (ディスカヴァー携書)という新書です.

タイトルをみるとこの本は,巷にあふれている普通の時間管理の本のように見えます.しかし,この本の主眼はこれまでの時間管理術のように「限られた時間の中でいかにうまく仕事を処理するか」ではなく,「限られた時間の中でいかに質の高いアウトプットを出すか」ということに置かれています.

筆者によれば,限られた時間の中で質の高いアウトプットを出すための秘訣は,時間ではなく「やる気」をコントロールすることにあると言います.「やる気」があるときは短時間で質の高いアウトプットを出せるけれど,今の私のように「やる気」がないときはいくら時間をかけてもいい仕事はできないというのは,多くの人が実感しているところでしょう.

この本では,どうやって「やる気」のある時間を作るか,「やる気」のある時間にいい仕事をするために何をすればいいのかなどについて,筆者の経験に基づいたお話が紹介されています.ビジネスマン向けの本なので経済などの例が多いのですが,基本的な部分については研究者でも十分共感できると思います.

時間管理術というより自己啓発の本という色合いが強いのであまり真剣に読む必要はないと思いますが,やる気がでなくて仕事が停滞している今の私にとってはそれなりに刺激的な内容でした.これに触発されて,今月はいい仕事ができるようになりたいものです.

2009年11月21日土曜日

声を届けたい

ここ1週間くらい,あちらこちらで行政刷新会議の事業仕分け結果への不安・不満が言われています.例えば,私がお世話になっている特別研究員事業は誤解を含むいろいろなコメントがついて,「縮減」の判定を受けました.人ごとなら笑っていられるのでしょうが,自分自身への評価や自分の研究生活そのものに直結することなので,何もしないわけにはいきません.微力ながら私も,文部科学省に対して意見を表明させていただきました.

多くの有識者・当事者が指摘しているとおり今回の事業仕分けにおいては,たった1時間で関連するすべての事業を評価するという手法に問題は多いと感じています.財務省・文科省の双方の担当者が現状の問題点を的確に把握していない(もしくは恣意的に論点を変えた?)ことも,事態を悪化させた要因であると言えます.これが契機となって科学技術関連の予算が大幅に削減されて将来にわたって日本の科学技術力を削いだとしたら,事業仕分けに関わった人たちの責任は大きいでしょう.

しかし,議論の手法に問題はあるものの全体として見れば,この事業仕分けはより成熟した民主主義へ向けた一歩となると私は考えています.財務官僚による論点の誤解・操作があったとしても,評価を行うのは国民の代表です.したがって,ワーキンググループの評価は科学技術への投資に対する国民の感情をある程度反映しているものと考えたほうがよいでしょう.実際,事業仕分けへの意見を表明した人の中には,研究に税金を使うことに対する意味や国民との対話の重要性を再認識した人も少なからずいるようです.

そして,今回の事業仕分けでは議論の過程がすべて公開され,それに対して意見を表明することができるという点も重要です.来年度の予算編成においてワーキンググループの結果はあくまで参考であり,それに対する意見を踏まえたうえで与党が最終的な判断を下します.つまり,ここで意見を表明することが重要なのです.

一昨日の深夜,面倒くさいメールを書きつつビールを飲みながら,何気なくTwitterで事業仕分け関連のタグを眺めていたら,各学会の若手が共同で声明を出すという動きがあるのを知りました.文科省へ多くのパブコメを届けることも重要ですが,同じ立場の人間が集結して声明を出すことは,より大きな影響力を持つことにつながると考えられます.というわけで,さっそくその取りまとめ役の方を紹介していただいて,生態学会からも有志で声明に加わることにしました.幸いにもこの提案をjeconetで流したところ,わずか半日で50名近い方の賛同をいただきました.

朝,メールを見たら,これに関連して25日の事業仕分け会場に若手の有志が集まってマスメディア向けに意見を表明する旨のプレスリリース(!)が届きました.私は行けませんが,少しでも国民のみなさんに若手研究者の声が届くよう,微力ながらお手伝いさせていただきたいと思います.

2009年11月20日金曜日

事業仕分けへの意見2(女性研究者支援)

Twitterやここで「女性研究者支援へのパブコメが少ない」という情報が流れていたので,急きょコメントをしたためて送りました.文章が荒っぽくて,おまけに一点ロジックが通らない部分があるのですが,鍵となる主張にはさほど影響しません.むしろ,多くの声が届くことが必要なのだと思います.一応,ここで公開します.

行政刷新会議担当
副大臣  中川正春 様
政務官  後藤 斎 様

行政刷新会議仕分け対象事業のうち,事業番号39:科学技術振興調整費(女性研究者支援システム改革)について意見を提出します.

標記事業につきましては,「予算要求の縮減(1/3程度)」という評価がなされましたが,私は科学技術振興政策においてもとりわけ女性研究者支援については緊縮財政課下においても優先的に予算を配分すべきであると考えます.それは来るべき高齢社会においては労働人口の低下は避けられず,科学技術分野への女性の参画を加速することが不可欠であるからです.

第3期科学技術基本計画において,女性研究者の採用割合を「自然科学系全体として25%(理学系20%、工学系15%、農学系30%、保健系30%)」とする数値目標が設定されましたが,現状では研究者に占める女性の割合は全体でわずか13%程度にすぎません.

数値目標はおおむね新規に博士号を取得した女性の割合を基準に設定されているため,目標と現実の差は優秀な女性が科学技術業界から流出していることを意味しています.このギャップを埋めることは,次世代を担う科学者の育成において急務であると言えます.

公表されている評価者のコメントを読む限り,女性研究者への生活支援は認めるものの,以下のように研究費への支援を「過大」「逆差別」と考えておられる委員が多いように思えます.

  • 「保育所の設置に限定するなら良いが、研究費は余分」
  • 「女性研究者に過大な補助金を与えるのは逆差別になりかねない」
  • 「支援は重要だ。研究費をつけるという支援の仕方はいけない」

私は研究費等の支援を「過大」とは考えません.研究者の評価基準のうちの重要な要素が研究費の獲得額である現状を踏まえば,女性研究者へ優先的に研究費を配分することは,より高い職位への女性の登用を促し,長期的に女性研究者全体の割合の向上へつながります.

女性への研究費等の支援が「逆差別」ということは,事例のレベルではあるかも知れません.しかし,そもそも学位取得者に対して女性の常勤的な研究職への登用が少ないこと,より高い職位への登用が少ないことを考えれば,全体として女性の立場が低いことは明らかです.

以上の理由から私は,研究者育成政策において積極的な女性研究者への支援が不可欠であり,急務であると主張します.


富田 基史

東北大学大学院農学研究科
日本学術振興会特別研究員(DC)

2009年11月19日木曜日

事業仕分けに対する文部科学省への意見

ブログやTwitterでの議論を見ていると,すでに何人かの方が文部科学省へパブコメを送ったようですね.パブコメを送るべきか,あるいは送りたいんだけどうまく書けないという方のために,私がこれから送ろうと思っている文面を下書きを兼ねて公開します.私の意見に関するコメントも歓迎します.

文部科学副大臣 中川正春 様
担当政務官 後藤斎 様

行政刷新会議事業仕分け対象事業のうち,特別研究員事業(競争的資金(若手研究育成))の縮減について意見を提出します.

今回の事業仕分けに際しては様々な意見があったと思いますが,特別研究員事業などの人材育成に関わる事業については拙速な削減をすべきでないと考えます.

ウェブサイト上で公開された評価コメントを読むかぎり,多くのWG委員が特別研究員事業は人材育成事業としてうまく機能しておらず,むしろ“余剰博士問題”の根源であると考えておられるに思えます.このような批判は以前から行政・学術業界で指摘されており,それを受けてテニュアトラック制度やキャリアパス多様化事業などの事業がいま行われているところです.したがって,(やや誤解や他の制度との混同があるものの)評価コメントにあった「博士養成に関する見直しが必要」であるという意見には原則的に同意します.

しかしながら,特別研究員事業がうまく機能していないことが縮減の理由であるなら,来年度予算において大幅な削減を行うべきではないと,私は強く主張します.その理由は,特別研究員事業が多くの学術分野において最大の若手育成事業であるからです.予算額の削減は特別研究員に採用される人数の削減に直結するため,大幅な削減は数年にわたって博士と将来活躍すべき人材の空洞化を招きます.これは研究者を目指す有望な若手にとって大きな失望であるばかりか,将来の日本の科学技術力の低下につながる恐れがあります.

若手人材育成事業である特別研究員事業については,制度の見直しと予算の削減は別個の問題として扱うべきです.


富田基史

東北大学大学院農学研究科 博士課程後期
日本学術振興会特別研究員(DC)

2009年11月18日水曜日

企業のためのやさしくわかる「生物多様性」

昨日,青葉山の生協で企業のためのやさしくわかる「生物多様性」 (エコラボFILE)という本が出版されていたのを見つけたので,とりあえず買ってみました.

生物多様性というと,まだ私たち生態学研究者が使っているようなイメージがあるのですが,この本の著者はいずれもビジネス関連の方です.自然科学の研究者にはない切り口で書かれているので,とても興味深く読みました.

さて,日本でもここ数年,生物多様性への取り組みへの重要性が一部の先進的な企業に認識されてきて,具体的な取り組みも始まっています.来年名古屋で開催される,第10回生物多様性条約締約国会議(CBD-COP10)に向けて,この動きは他の企業にも急速に広がっていくと思われます.

ただ,いくら流行りだからとか社会からのニーズがあるとはいえ,「生物多様性」という言葉すら聞いたことがない企業がいきなり具体的な取り組みをはじめるのは無理があります.コンサルティング会社に丸投げしたり,環境NPOにお金だけ出すのも一つのやり方ではあります.しかし,企業が生物多様性に取り組む本質は,企業が依存している生態系サービスを維持と取り組みによって社会から信頼を得ることにあります(これについてのレポートはここを参照).したがって,企業が生物多様性に取り組むためには,自らの事業と生物多様性・生態系サービスとの関わりを認識することと生物多様性の価値を認識することが不可欠です.

この本は,具体的なデータ・事例を通じて,企業が多様性に取り組む意義,生物多様性と生態系サービスの現状,生物多様性とビジネスの関係などをとても分かりやすく解説しています.特に後半の「ビジネスとどうつながっているのか」という章では,規制やビジネスへのリスクだけでなく,生物多様性をどうビジネスのチャンスにするかという点も書かれていて,非常に興味深いです.日本企業の先進的な事例が紹介されているのいいと思います.

一方で,環境省も生物多様性民間参画ガイドラインを今年の8月に策定し,公表しています.基本的な内容はこの本と同じなのですが,背景が長いわりに具体的な取り組み指針が少ないなど,記述がアンバランスなように感じていました.このガイドラインは,生物多様性に関するものとしては経済界・自然保護団体・科学者の話し合いと合意によって書かれたはじめての文書なのですが,生物多様性に関する理解が十分に浸透していない現状では合意が難しい部分が多かったのでしょう.

日本ではまだ生物多様性の価値・意義が十分に理解されているとは言えませんが,今後急速にニーズが高まっていくことはほぼ間違いないでしょう.そのためには生物多様性に関する情報を充実させていくとと,様々な立場の人が議論を重ねていくことが不可欠です.この本がその先駆けとなることを期待したいと思います.

2009年11月17日火曜日

「日本の林業の問題点」って言われても・・・

先日,民間企業で働いている大学時代の友人から「日本の林業の問題点が平易に分かる入門書や資料集ないかなぁ」というメールが来ました.

日本の林業が抱える様々な問題については,私のみならず多くの心ある森林研究者が憂いでいるところです.しかし,それらの論点が簡潔にまとめられている本って言われても,具体的な書名が思い浮かびません.

学部のときに森林政策学に関連する授業をいくつか履修していたのですが,教科書を買ったことがなく,ほとんどが先生の手作りの資料やテキストでした.中にはA4で100ページ近くになるものもあり,授業のためだけによくこんなものを作ったなぁと感心してしまうものもありました.

結局,手元にあった本の中で友人の要望にこたえられそうなものは,林野庁が毎年出している森林・林業白書―低炭素社会を創る森林〈平成21年版〉だけでした.

これで日本の林業が抱えている問題点がきちんと理解できるのかは不明ですが,挿絵がたくさんあって,大きな字・簡潔な日本語で書かれていることだけは間違いありません.中学生でも楽に読めます.

私の勉強不足なのかもしれませんが,日本の林業が非常に多くの問題を抱えている状況において,林業の問題点を総合的に論じた本がないというのは,ある意味日本の森林学会の怠慢と言えるのかも知れません.どうかこれが私の無知による誤解であることを,祈りたいと思います.

私自身は自分が出来る範囲で日本の林業が抱えている問題点を他の研究者と共有する機会を持ちたいと考えています.来年の森林学会大会では,「環境変化と樹木の保全」と題した小さい国際ワークショップを開催します.講演者は少ないですが,日本の森林学会に向けて少しでも問題提起をしていきたいと思っています.

2009年11月16日月曜日

意見を言わなきゃ!

さきほどのエントリの前半のほうでふて腐れたこと書いてしまいましたが,細さんをはじめ多くのみなさんがネット上で立ち上がろうとしているのを見て,自分もアクションを起こすことにしました.

文部科学省では事業仕訳結果を踏まえた予算編成の前に,パブリックコメントを募集しています.ここで,すでに仕訳結果が出た事業に対して意見を述べることができます.ひとつひとつの意見は大したことないかもしれませんが,科学者(特に若手)から多くの意見が集まることによって,財務省主計局との予算折衝において後ろ盾となることを期待したいです.

以下の窓口から民主党や第3WG委員の国会議員へ意見を述べることができます.グローバルCOEなどの大型予算の査定がまだ控えています.相手にしてもらえるかは別として,急いで意見を送ったほうがよさそうです.

next49さんが意見を述べる際に気をつけるべきことを書いています.私を含め,パブコメ初心者は読んでおいたほうがいいでしょう.

「仕訳け」られた・・・

先週の金曜日に,行政刷新会議の第3ワーキンググループにおいて,文科省の競争的資金(若手研究)の事業仕訳が行われ,「予算要求の縮減(予算計上見送り1名 予算要求の縮減10名(a 半額3名、b1/3縮減 3名、その他4名)予算要求通り2名)」という極めて厳しい評価が下されました.私を含めて多くの大学院生・若手研究者がお世話になっている特別研究員事業もこれに含まれています.(委員のコメントと評決は,http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov13kekka/3-21.pdfを参照のこと)

「子供手当の支給」「高等学校の授業料無料化」などの公約を掲げて先の選挙で民主党が政権をとってから,こうなる日が来るだろうとは思っていました.華々しい政策転換の一方で,高等教育の充実や科学技術振興への言及が民主党の公約にほとんど見られないからです.そして圧倒的多数の国民は民主党を選びました.これが国民の意思です.したがって,今回の事業仕訳で若手人材育成や先端研究が軒並み削減の判定を受けたのは,総選挙からの既定路線であると言えるでしょう.むしろ私たち科学者はこの事態に気付くのが遅すぎたくらいだと,自戒をこめて思います.

とりあえず,私たちは敗北しました.残念です.

国民に対して科学研究,特に基礎研究の意義や長期的な視座にたった人材育成の意義を訴えることを,これまで私たちはおろそかにしていました.もはや鼻で笑いたくなってしまうほど儚い言葉に聞こえてしまう「科学技術立国・日本」が,先人たちの数十年にも及び地道な基礎研究の積み重ねによって創られてきたとしても,それを国民が知らなければ基礎研究なんて道楽と一緒です.ましてその道楽に日本のインテリジェンスを投資するなんて言語道断.WG委員の誰かが指摘していたように,民間で活躍してもらったほうがよほどマシです.もし運よく私がこの世界にとどまっていたら,今回の教訓を胸にアウトリーチ活動とかをもうちょっと真面目にやろうと思います.

しかし,自分自身が「事業仕訳」のまな板に乗せられて裁かれる身になってみると,そう悠長なことも言ってられません.落ち武者の身においても,まだ命があるなら一矢報いねばなりません.午前中は急ぎの仕事を棚上げにして(…ゴメン),何人かの人とこの件について意見を交換していました.いろんな人のブログやjeconetでの細さんの投稿を皮きりとした議論を見ている限り,学会が連帯して何らかのアクションを起こすように動いているのだと思います.すでに手遅れかも知れませんが,何もしないよりはマシです.

評議委員のコメントを読んでいると,WGの中に若手研究者の実情や人材育成の意義を正しく理解していない委員が少なからずいることが容易に分かります.また,「若手研究者が安定して働き研究できる場所を見つけるための国の政策を若手にこだわらず再構築。」「若手研究者の問題は政治の問題でもあるので、十分な見直しが必要。」といった査定に関係ないコメントが前後の文脈を省略されて掲載されていて,ペラ一枚で「再構築」「十分な見直し」という言葉だけが恣意的に強調されているのではないかとさえ勘ぐってしまいます.

若手研究は大幅な削減判定を受けてしまいましたが,まだグローバルCOEグローバル30大学院GPなどの大型教育研究予算の査定が残っています.

この時点でWGの委員や与党に対して何らかのアクションを起こさなければ,残りの事業も同じような判定を受けてしまいます.時間がありません.

ちなみに委員の名簿(案:最終ではないです)は以下の通りです.(行政刷新会議第2回資料より)

  • 田嶋 要 (衆議院議員)
  • 蓮舫 (参議院議員)
  • 赤井 伸郎 (大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授)
  • 荒井 英明 (厚木市職員)
  • 小幡 純子 (上智大学法科大学院長)
  • 金田 康正 (東京大学大学院教授)
  • 伊永 隆史 (首都大学東京教授)
  • 高田 創 (みずほ証券金融市場調査部長チーフストラテジスト)
  • 高橋 進 ((株)日本総合研究所副理事長)
  • 中村 桂子 (JT生命誌研究館館長)
  • 永久 寿夫 (PHP総合研究所常務取締役)
  • 西寺 雅也 (山梨学院大学法学部政治行政学科教授)
  • 原田 泰 ((株)大和総研 常務理事チーフエコノミスト)
  • 速水 亨 (速水林業代表)
  • 藤原 和博 (東京学芸大学客員教授/大阪府知事特別顧問)
  • 星野 朝子 (日産自動車(株) 執行役員市場情報室長)
  • 松井 孝典 (東京大学名誉教授)
  • 南 学 (横浜市立大学エクステンションセンター長)
  • 山内 敬 (前高島市副市長/高島一徹堂顧問)
  • 吉田 誠 (三菱商事(株) 生活産業グループ次世代事業開発ユニット農業・地域対応チーム シニアアドバイザー)
  • 渡辺 和幸 (経営コンサルタント/(株)水族館文庫代表取締役)

今後しばらく民主党が政権与党の座にいて彼らの科学技術政策への考え方が変わらないなら,私は研究者を続けることができなくなるかも知れません.個人的には研究者を続けられないことをあまり深刻に考えてはいないのですが,若手の中には「梯子を外」されて路頭に迷ってしまう人も多数いると思います.何よりもこの時点で人材育成への投資をやめてしまうことは長期にわたって日本の科学技術分野における国際競争力を削ぐことになります.日本の科学技術の,そして自分自身の将来に少しでも不安や問題を感じているなら,何かアクションを起こしましょう.

ちなみにこの件に関しては,東北大学脳科学GCOEリーダーの大隅典子先生がコメントを募集しています.

2009年11月12日木曜日

動的なネットワークと価値の創造,そして連鎖へ

先週末に行われたPEM講義「ソーシャル・レスポンシビリティ学II」の報告のつづきです.

今回の講義には,国内のNPOを代表してアサザ基金代表の飯島博さんが来てくださいました.市民による自然再生の先駆的な事例として有名な霞ヶ浦・北浦アサザプロジェクトをはじめ,アサザ基金は多くの市民参加型運動を展開しています.講義やその後の議論ではこれらの事例にくわえて,「働きかけ」によるネットワークの創造といったアプローチの話からNPO・研究者のあるべき姿に至るまで,とても刺激的な議論が続きました.

この話題についてはPEM一期生のエース:吉野元さんもブログに書いてますので,そちらもあわせて読んでもらえればと思います(http://nocchi39.blog38.fc2.com/blog-entry-227.html).

アサザ基金のアプローチの特徴は,市民が主体のネットワークに様々な立場の組織や人を巻き込み,そこで形成された「場」のなかで課題に取り組んでいくことにあります.一般的なプロジェクトと同じく自然保護の現場においても,まず中心となる組織(行政など)が全体的な課題と具体的な指針を設定して,それにしたがって各人が行動するということが普通だと思います.

それに対してネットワーク型のアプローチでは,中心となる組織やあらかじめ決められた課題は大きな意味を持ちません.その代わりに,ネットワークに参加する人たちが個別の課題へ取り組んでいくことによって新しい価値やつながりが生まれ,次の課題が生まれていきます.このようにネットワークが動的に成長することによって総合化が起こり,全体が動いていくわけです.

では,どうやったら動的に成長していくネットワークを展開できるのでしょうか.飯島さんによれば,そのカギは「価値」「意味」であるとのことです.ネットワークが機能していくためには常に「動き」「流れ」があることが必要なのですが,あらかじめ決められた「課題」のために組織化されたネットワークはやがて硬直化して機能しなくなります.ところが「価値」「意味」を通じてつながっているネットワークはそれによって様々な人や組織とつながり,そこからまた新しい「価値」「意味」が生まれます.このような「良き出会いの連鎖」によって動的に成長していくネットワークが展開されるのです.

講義では小中学校の環境学習を契機に地域のネットワークを立ち上げていった事例をいくつか紹介していただきました.なかでも,霞ヶ浦・北浦アサザプロジェクトはこれまでに200以上の学校・企業・自治体などが参加する壮大な地域ネットワークへと成長していきました.このような成功事例が他の地域にも波及していってほしいものです.

ただ,そこに「価値」「意味」があったとしても,動的に成長していくネットワークを立ち上げて機能させるためには,何かしらの“力”が必要なはずです.私は飯島さん自身が培ってきた価値観や動き方にその“力”を感じました.ネットワークは「共同体」ではなく,「違い」や多様性を飲み込みながら拡がっていくものです.そのためには「異質なものを否定しない」「膨大な多次元の世界へ入る」「壁を溶かす」といった行動ができる価値観と“勇気”が必要でしょう.

制度や利益のしばりを受けにくいNPOは本来,つながりを作っていくための「触媒」であるべきだと,飯島さんは言います.多くのNPOが行政の下請けや補完をしている現状は,「触媒」とはほど遠いものかも知れません.これを変えていくためには,まず「良き出会い」が必要でしょう.行政やNPO自身の価値観や内輪のつながりにとどまることなく,他者との出会いを通じて多様な価値観を受け入れていくことが第一歩であると思います.

保全や問題解決に携わる研究者自身もネットワークの中でどう振る舞うかを考えなければなりません.飯島さんは「精神なき専門人」という警句をもってして,トップダウン的な仕組み作りに向かう研究者を批判していました.この批判は部分的には当たっていると思います.研究者自身が地域とのつながりのなかで新しい「価値」「意味」を創造できるか,あるいは地域の中で研究者がどう位置付けられて機能していくのかを改めて考えてみなければいけないと感じました.

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ところでこの文章,今日の未明から書き始めて夕方にようやく公開することができました.ここまで時間がかかったのは,私の語彙力・文才の無さを差し置いて言えば,「市民参加の動的ネットワーク」という“定まった実態がないもの”について表現することの難しさのせいでしょう.最後にとりあげた研究者自身への課題は,この“定まった実態のないもの”と自身との関係を考えることであると言えます.これを真剣に考えることは,あるいはとても困難なものになるのかも知れません.そこに踏み込む“勇気”があるか,「応用科学」を少しでも標榜している生態学研究者は考えたほうがいいのかも知れません.

2009年11月10日火曜日

持続可能な社会と後ろ向きな問題解決

この週末は生態適応GCOEの人材育成プログラムの一環として,ソーシャル・レスポンシビリティ学IIの講義を仙台で受けてきました.

企業の社会的責任(CSR: Cooperate Social Responsibility)に代表される,社会的“責任”(SR: Socal Resonsibility)とは,「自らと社会・地球環境の関わりを認識し,真に持続可能な社会を作り上げるための活動」を意味しています.今回の講義では,持続可能な社会をどう構築していくかという点について,受講者を交えて興味深い議論が行われたので,その様子を紹介したいと思います.

今回の講義では事前に,国際NGOのThe Natural Stepが開発した持続可能な社会の構築に関するe-learningを行いました.内容は,現状の認識とナチュラルステップが提唱してきた持続可能性の具体的な定義と持続可能性な社会を構築するためのストラテジー,そしてそれを実際に実現した例などです.

ナチュラルステップでは持続可能なシステムを4つの条件によって定義しています.(訳は富田)

  1. 地殻から掘り出した物質(化石燃料・重金属・リン鉱石など)の濃度が増加しないこと
  2. 人間活動に由来する化学物質の濃度が増加しないこと
  3. 自然が人間活動によって劣化させないこと
  4. すべての人が平等に生態系サービスの恩恵を受けられること

これをもとに,将来あるべき状態をまず先に設定し,そこから後ろを振り返ってストラテジーを立てるのが,「バックキャスティング」と呼ばれる考え方です.e-learningではこれらの考え方とその実例を演習問題付きでとても丁寧に説明されていました.また講義では,ナチュラルステップ・ジャパン代表の高見幸子さんが講師として来てくださり,スウェーデンの企業・自治体がバックキャスティングによって持続可能な社会をデザインしてきた実例を紹介していただきました.

ナチュラルステップのアプローチが優れている点は,バックキャスティングという目標設定型のアプローチを取り入れていることよりは,むしろその目標の頑健性にあると思います.

目標が頑健であることは特に,このアプローチが成功するために重要な意味を持っています.目標設定型のアプローチの失敗例として分かりやすいのが,民主党政権になって見直しが進められている一部の公共事業です.公共事業ではあらかじめ,道路の交通量や人口の増加と水需要といった将来の目標を設定したうえで,それを満たすように事業計画を立てます.しかし,それが満たされないと費用対効果の面でその事業は失敗します.環境対策においても同様に,想定外の要因や見積もりの甘さなど,目標の設定ミスによって事業が失敗する例があると思います.

先に述べた4つの原則のうちの最初の3つは,物質循環・生物の代謝・生態系機能の本来あるべき姿を超えないこというとても単純な根拠に基づいて設定されているため,幅広い問題に対して適応が可能で,かつ頑健であると言えます.保全や自然科学に取り組んでいる人ならあるいは,これよりも達成が簡単でより有効な原則を提示することができるかも知れません.しかし,この4つの原則は最善ではないにせよ,状況がどうなってもその意義はほとんど変わりません.

このアプローチは社会システム全体の大きな転換を図るときに特に有効だと,高見さんは考えているようです.大規模な規制や仕組みの転換には,非常に大きな労力と事業間の一貫性が求められることがその理由です.確かにこれは正しいと思います.しかし,目標とストラテジーの設定・実行においては,問題に関わるすべてのステークホルダーが議論し合意することが不可欠です.ナチュラルステップ発祥の地であるスウェーデンでこのアプローチが成功している理由は,スウェーデンの民主主義がとても成熟しており,徹底した情報公開と国民参画の仕組みが出来上がっているからです.

では,日本ではどうでしょうか.今回のPEM講義には前山形県鶴岡市議の草島進一さんが地方自治体で政策に関わってきた立場から講演をしてくださいました.

草島さんはもともと水環境問題から持続可能な社会の構築に興味を持たれたということで,鶴岡市議になる前は,ダム建設の反対運動をやっていたそうです.流域においてダム建設や河川改修のような大規模な事業を行う際には,流域委員会という委員会が設置されて住民や専門家が事業の是非や手法について議論を行うことになっています.ところが実際は,中立的なファシリテーターがいないために国土交通省のシナリオどおり有効な議論がされないまま事業が進められてしまうことがしばしばあるようです.また実際の事業においても,不正確な需要予測にもとづく事業計画がそのまま遂行され,結果として大きなムダや生態系サービスの劣化を招くことがよくあります.

すなわち,地方自治体の事業には目標の設定における議論と合意形成がなく,そもそも頑健な目標を設定するための基準すらないのです.

草島さんはここで,ナチュラルステップの基準を用いて持続可能な社会の構築を議論してこようとしました.保守の地盤が強い鶴岡市で草の根的に活動を展開することは大変なことだったと思います.残念ながら,先月行われた市長選挙に挑戦して落選されたということですが,今後のご活躍に期待したいと思います.

2009年11月5日木曜日

ピンチのときこそ勉強を?

昨日は東大で塩漬け論文の執筆再開に向けた打ち合わせをしてきました.1年くらい(!)アタマを冷やしたので,オーバーディスカッションがなくなって,すっきりした論文になりそうです.とりあえず来春の投稿に向けて,時間を見つけて取りかかろうということになりました.

さて,打ち合わせが終わって川渡へ戻ってきたわけですが,まだピンチが続いています.しかし,今日はAmazonから本が届いたので,それを読むことに半日を費やしてしまいました.ピンチのときこそ,不思議といろいろなものに対する知的好奇心が湧くのです.困ったものです.

今回届いたのは,ソニーコンピュータサイエンス研究所から出たオープンシステムサイエンス―原理解明の科学から問題解決の科学へという本です.この本では,まず20世紀科学を支えてきた還元主義の限界を超えて,動的・複合的なシステムの理解と制御を目指す「オープンシステムサイエンス」という新しいパラダイムを提唱し,続いてそれに関連した話題をソニーコンピュータサイエンス研究所の研究者たちがそれぞれ提供しています.

この本,もともとは北野宏明さんの「生物学的ロバストネス」について日本語で勉強したかったので買ったのですが,編者の所眞里雄さんによるオープンシステムサイエンスについての解説がとても面白かったので,ここで紹介したいと思います.

ソニーコンピュータサイエンス研究所でオープンシステムサイエンスが生まれた背景には,近年の様々な問題に対して還元主義による問題解決が対応できなくなってことがあります.エネルギー・環境・食糧などの問題,あるいはガンなどの人体に関する問題はいずれも,「互いに関連する多数のシステムからなる統合システムの問題解決」であるといえます.このような問題は個別のシステムの相互作用を把握することが難しいために,問題を要素に還元して理解することが難しいのです.

還元主義による解決が困難なもう一つの理由は,前述の課題が「問題を生きているまま、あるいは実用に供している形で解決していかなければいけない」という特徴を持っているからです.還元主義では通常,要素に還元して再現性のある形で汎用化することによって問題を理解しようとします.ところが,問題を生きているまま解かなければいけないということは,「一回かぎりの問題を解く」ということになり,抽象化や要素還元が難しくなります.

むしろ,動的に変化していく問題を,全体的(holistic)なアプローチによって解決していくことが必要なのです.

真理探究を目的としたこれまでの科学に対して,オープンシステムサイエンスは個別のシステムが動的に相互作用しているシステム(これを「オープンシステム」と呼ぶ)の問題解決を目的とする新しい学問です.この学問では,個別プロセスの「分析」と「合成」に加えて,「運営」というアプローチが鍵になります.つまり,「常に全体を把握しながらその時間的な変化を理解し、変化に対応し、持続させていく」ということで,具体的には対象とする領域によって「適応」とか「保守」と呼ばれます.

ここまで読んでみて著者の主張に一応納得はしたものの,これが“科学”の手法として成立しうるのかという疑問を一番最初に持ちました.この疑問はトートロジーです.しかし,「統合システムの理解」とか「問題を生きているまま解決」という主張は漠然としすぎているのではないかと思わざるを得ません.

これは私が還元論の対極にある全体論的な科学の手法についてほとんど理解とか経験がないからでしょう.私だけでなく,多くの科学者がそうだと思います.真理の探究を目的とした20世紀の近代科学は,要素還元と抽象化による問題の理解の方法論やその哲学的な位置づけを固めつつあるといえるでしょう.それに対して,全体主義的な科学はそのようなバックグラウンドをほとんど持っていないと思います.

現状でよくみられる非還元主義的な研究の多くは,「記載研究」と呼ばれる原始的な学問の形態をとっていると思います.それに対して,システムの全体的な理解(ここでは「分析」と「合成」)に加えて「制御」による問題解決を目的としている点で,オープンシステムサイエンスという考え方は非還元論的な科学の手法に新たな発展をもたらすものなのかも知れません.まだ所さんと北野さんの章しか読んでいないのですが,この本を読み終わるころにはもう少し理解が深まっていることを期待したいものです.

ちなみに私が現在関わっているプロジェクトのうち,この本を読んで還元論的なアプローチで解けない問題が少なくとも一つあることを改めて実感しました(うすうす気がついてはいました).さて,どうやってこれに取り組んでいこうか,この本が最初の示唆を与えてくれるものであればよいなと思います.

2009年11月2日月曜日

データとコードの発掘を

明日は東大で塩漬けにしてしていた論文の投稿に向けた打ち合わせがあるので,今日はその準備をしています.この論文,もともとは他大学の卒論生のデータ解析をお手伝いしたのをきっかけに,共著者として加わることになったのですが,他の仕事が忙しかったりでかれこれ2年以上ほとんど進捗がないまま放置していました.

これだけ仕事を放置すると,データを点検したり図を描いたりするだけでも,一苦労です.まず,昔の自分が描いたコードが読めない,ファイルのフォーマットがバラバラ,そしてなによりもデータやソースコードが見つからない…

昨日から発掘作業をはじめて,今日のお昼にようやくデータ解析ができるようになりました.データを点検して,昔の解析の不十分だったところを直して,図をきれいに描き直してとやっていたら,真夜中までかかってしまいしました.まだ頼まれた部分が完ぺきに終わったわけではないのですが,論文の構成に関しても打ち合わせなければいけないので,これから必要な論文をチェックせねばです.アウトラインは東京に行く新幹線の中で考えることになるでしょうか.

ここ最近,いろいろな仕事がたまっていて,毎日締め切りに追われるように生きています.時間管理がなっていないというのは分かっているのですが,なかなかうまくいかないものです.

2009年10月31日土曜日

統数研ワークショップ

昨日・一昨日と立川の統計数理研究所で開かれたワークショップ「フィールド生態と統計数理」に行ってきました.準備は大変だったのですが,バックグラウンドが違う人たちと熱い議論ができて,とても有意義な時間を過ごすことができました.オーガナイザーの島谷さん,参加者のみなさん,ありがとうございました.

詳しい感想は後日にでも書こうと思っているのですが,私のプレゼンについて一点だけ補足.

今回,私はアカエゾマツの遺伝的多様性の他に「『階層ベイズ革命の構造』フィールド生態学者たちの軌跡を追って」という題で,階層ベイズがフィールド生態学研究者に急速に広がっている現状と問題点について話をしたのですが,私の話し方が悪かったせいでいろいろな誤解を生んでしまったようです.話の主旨は,方法論としての階層ベイズの位置づけを確立していかなければいけないということだったのですが(詳しくは英文のほうで),これがどうもここ1年くらいでベイズを始めた方々を否定するように聞こえてしまったようです.

階層ベイズは便利な道具ですが,その使い方とか結果の見せ方・解釈の仕方などについてはまだまだ議論の余地があると思います.せっかくベイズがここまで普及してきたので,数学やコンピュータの技術面だけでなく,方法論の面からも議論が進めばよいなと思っています.

2009年10月26日月曜日

何を話したらいいか・・・

今週の木曜日と金曜日に立川の統計数理研究所で開かれる研究集会で講演するので,ここ数日はその準備で頭を悩ませています.

統数研での講演は,私がもっとも苦手としているものの1つです.まず聴衆のバックグラウンドが,バリバリのフィールド科学から数理・モデリングまでとても広いので,自分の研究の問題意識や面白さをどうやってアピールするかとても悩みます.さらに,私自身が統計数理をよく分かっていないために,そっちの専門の方とマトモな議論ができないこともしばしばです.今まで何回か統数研で講演したことがあるのですが,自分が満足いく出来だったことは一度もありません.

今回は,今年の生態学会で発表したネタで話をしようと思います.しかし,生態学会のネタをそのまま話しても統数研ではウケないので,何か違う問題提起の仕方が必要です.一応,大まかなアイディアはあるのですが,それをどうやって表現していいのか,検討がつきません.

こういうときは話を聞いてくれる仲間がいるとありがたいのですが,うちの研究室のみなさんは多忙なので,そうもいかなそうです.

本番まで使える時間は,最大でもあと2日.何とかなるといいのですが….

2009年10月23日金曜日

やることが・・・

今月に入ってから,仕事の量が増えてきました.その多くは夏ごろから予想していたものだったのですが,いざいろいろな種類の仕事が一度にやってくると,何から手をつけてよいのか分からなくなってしまいます.時間管理というのはむずかしいですね.

とりあえず先週は,研究室セミナーの準備,もろもろの打ち合わせ,それにマレーシア実習のレポート書きで終わってしまいました.実習のレポートについては,当初はブログに実習レポートの下書きを書いておいて,それをコピペして提出しようと思っていました.ところが,ブログを書く段階でかなりの時間を使ってしまったので,結局週末に追いつめられて書くハメになってしまいました.そのせいで,グループワークのレポートを他の人に校閲してもらう時間がなくなってしまったのは申し訳なかったです.

個人のレポートについては,加筆・修正したうえで近いうちにここで公開したいと思います.

今週は,来週の木曜日に統計数理研究所で開かれる研究集会の準備を主にやっています.当初はせいぜい10人くらいのこじんまりとした集まりだと思っていたのですが,送られてきた案内をみるとなんと30人以上の方が来られるようです.聴衆の専門分野も遺伝・進化・生理・生態からモデリング・統計数理まで幅広いので,どういう話をしたらいいものか,よいイメージが浮かびません.準備に使える時間はあと3日なので,明日からは集中して取り組みたいと思います.

それに加えて,来年3月に行われる生態適応GCOEの環境機関コンソーシアム定例会に付随して行われる,RAポスターセッション+キャリアパスイベントの準備にも取りかかりました.“上”の意向でこのイベントの一部をGCOEのRAが企画することになったので,その立ち上げを私が担当しています.先週は,仙台で“上”と事前打ち合わせしたうえで,RA実行委員候補への呼びかけを行いました.来週の水曜日には,RA実行委員会のキックオフミーティングを行う予定です.

今日は,来週のキックオフミーティングのアジェンダの素案を作って,“上”と一部のRAに送りました.来週の月曜にはすべての参加者にアジェンダを送る予定です.イベントの企画はまったくの素人なので,イベント企画ブログや会議術のサイトなどを参考にやってます.勉強になるのはいいのですが,これに時間をとられすぎるのは痛いです.

もっとも,私が事務的なことの大半をやらなければいけないのは立ち上げのときだけで,次回以降はRA実行委員のみなさんにいろいろな仕事を分担してやってもらおうと思っています.そのためにも,初回はそれなりのものを作らねばです.

さらに来週は,もう一つとても重要な打ち合わせがあります.これについては,打ち合わせまでに重たい宿題が課せられているのですが,さてどうしたものか…

そういえば,今週末のTOEICを受ける予定だったのを,今まですっかり忘れていました.もうすっぽかしてしまいたいです.

再来週は共著論文の打ち合わせとその準備,そして自分のD論プロジェクトを進めるうえでの締め切りがあります.

やることはたくさん,しかし時間は有限.しかも自分のアタマがマトモに働く時間に限定すれば,使える時間はかなり限られています.こうやってやることを書きだして,あとは無理をしようないように着々とやっていくだけです.それがうまくできないから,困ってるんですけどね.学位をとるまでには,もうちょっと時間管理がうまくなっているようになりたいものです.

2009年10月19日月曜日

Rグラフィックス:Rで思いどおりのグラフを作図するために

北大の久保さんが翻訳されたRグラフィックス ―Rで思いどおりのグラフを作図するために―が,ついに刊行されたようです.機会をみて発注しようと思っていたら献本いただいので,ここで紹介したいと思います.

この本は,2005年に刊行されたR Graphics (Computer Science and Data Analysis)の和訳で,久保さんがあとがきで述べているようにRの作図機能の解説としてはもっとも詳しい本です.

生態学の分野ではRがかなり普及してきて,論文や学会発表でRで描いたと思しき図を見ることが普通になりつつあります.Rには非常に強力な作図機能があって,それらを使いこなせばかなり凝った図が描くことができます.しかし,それなりの図を書くためにはそれなりの知識が必要なので,ほとんどの人はイマイチな図に甘んじるか,Rからデータをエクスポートして他の作図ソフトを使っているのではないでしょうか.

この本はRはある程度使えるけれど,デフォルトのイマイチな図しか描いたことがないというレベルの人にちょうどよい本だと思います.私自身,卒論を書いていた2005年の冬に原著を買って,常に側に置いて辞書的に使っていました.

内容はR本体の作図機能(traditional)に加えて,強力な作図パッケージであるlatticeとgridの詳細な解説になっています.特に後半のgridの解説はとても充実しています.それぞれの章はかなりくわしく解説されているため頭から読んで勉強するにはしんどいと思うのですが,ぱらぱら読んでみて必要なところだけを辞書的に使うようにすればよいのではないかと思います.

ちなみに私自身は,R本体だけで図を作るのではなく,Postscriptで出力してからIllustratorで加工することが最近は多いのですが,それでもこの本は手放せません.

ついでに言うと,原著は9,000円前後とかなり高価ですが,訳本は装丁が簡単なのでその半値くらいで買えます.ありがたいことです.

2009年10月13日火曜日

久しぶりのHTML

GCOE関連の仕事のために,久しぶりにHTMLを書きました.

昔はサイトのデザインからJavaScript/CGIまですべて自分でやっていたので,ひとつのウェブサイトを作ることはかなりの重労働でした.特に,当時はブラウザによってHTMLやスタイルシートの解釈が微妙に違っていて,自分が使っていないブラウザで見るとレイアウトが崩れるということがよくあったので,出来上がってからの調整には特に苦労した記憶があります.

ところが最近は,デザインもよく,いろいろなブラウザごとに調整されたテンプレートが無料で利用できるので,最低限の知識と時間があれば簡単にウェブページを作ることができます.便利な時代になったものです.

今回私が使用したのは,Multiflex-3というテンプレートです.デザインがシンプルでレイアウトもいろいろカスタマイズできるので,とても便利です.

サイトのほうはこれから内容を追加していくので,まだ一般から見れる状態にはなっていないのですが,公開されたらここでもお知らせしようと思います.

2009年10月12日月曜日

たまには料理でも

学部の後半から今までの約4年間(!),私は自分の家でほとんど料理をしていませんでした.理由は,一人分を作るのが難しいのと,食べてくれる人がいないと気合いが入らないからです.料理をしたあとの片づけが面倒くさいというのもあります.

というわけで,ここ数年は外食とコンビニ中心の生活が続いていたのですが,これでは食費がかかりすぎるので,少しずつでも自分の家で料理ををすることにしました.

こっちに引っ越して以来ほとんど使っていなかった台所を整理するのは大変でしたが,環境さえ整えてしまえば意外と快適だなと思いました.まだパスタとかリゾットとか手軽に作れて失敗しにくいものが中心ですが,慣れてきたら農場の学生さんたちを招いて,いろいろな料理をふるまいたいと思ってます.

2009年10月7日水曜日

ブログを書いたり

昨日から,マレーシア実習について少しずつブログの文章を書いています.これは自分がマレーシアで感じた様々なことをこのブログを読んでくださっている方と一緒に考えたいという理由の他に,あと10日ほどで締め切りの実習レポートの下書きという理由もあります.いずれにしても,まとまった文章を書くことは,自分の考えが整理されてとてもよいことです.

ところで,今回のマレーシア関連の記事ですが,まずは英語版をすべて書きあげてから,こちらに翻訳・改訂版を掲載していこうと思っています.これは,実習の最終日に一緒にディスカッションをしたマレーシア・サラワク大学(UNIMAS)の学生さんたちにも記事を読んでもらいたいからです.

なので,何かコメントがありましたら,ぜひとも英語版のほうにお願いしたいと思います.日本語でも結構ですので,よろしくお願いします.

2009年10月6日火曜日

持続可能な熱帯林施業

9月23日から10月4日まで,生態適応GCOEのPEMプログラムの国際フィールド実習で,マレーシア・ボルネオ島(サバ州・サラワク州)へ行ってきました.天然林施業の現場を視察したり,ジャングルで動物や植物を観察したり,現地の行政や企業を視察したりと,盛りだくさんの12日間でした.本当は現地で逐次ブログを更新しようと思っていたのですが,ネットが使えなかったり,コースワークやディスカッションで忙しかったりでできなかったので,レポートの下書きを兼ねて数回にわけてここで様子を報告したいと思います.

実習の前半では,まずサバ州における森林管理指針を学び,持続可能な森林施業の現場を視察しました.今回訪問したDeramakot Forest Reserveはサバ州政府が管理している恒久的な森林保護区(Permanent Forest Reserve)の中でも,持続可能な森林施業体系の構築のためのモデル地区として,ドイツの協力のもとで先進的な森林管理が行われています.それらは,日本はもちろん,欧米を含めた先進国の主要な天然林施業指針よりもさらに生物多様性保全と持続可能な森林施業に配慮していると感じました.

具体的には,伐採が行われる地区では,まず作業道に沿ってすべての伐採対象木(DBH>60cm)について毎木調査とGPSによるマッピングが行われます.その際,オランウータンが利用する樹種や突出木は除外されます(これにもかなり細かいガイドラインがあるようです).伐採率は蓄積のせいぜい数パーセント程度であるとのことでした.伐採・搬出作業においても,作業道では土壌流出や踏み固めの影響が最小限になるような配慮がされ,傾斜が急な個所では架線集材が行われます.伐採後は現地の労働者が森林官が決めた施業方針に沿って作業を行ったかどうか査察が行われます.これらの現状から判断する限り,Deramakotの森林施業指針は生物多様性保全や持続的な資源の利用という観点からきわめて優れていると感じました.

ただし,これまで見てきた日本の森林の現状を思い出して,いくつか気になったこともありました.

まず,Deramakot Forest Reserveの森林施業指針自体は優れているものの,伐採跡地の長期的なモニタリングが不十分であると感じました.私が知る限りですが,北海道の天然林の場合,弱度の択伐は林分の外見や蓄積にはほとんど影響を与えないのですが,地表の環境の変化によって更新がうまくいかなくなったり,大きい個体を選択的に伐採することによって蓄積は変わらなくても個体サイズが小さくなっていくという,林分の“劣化”が起こります.熱帯林の場合はいろいろ事情が違うのだとは思いますが,ここで行われている施業指針が本当に将来の林業生産や生物多様性への影響が少ないのか,より長期的なスパンで検証してほしいものだと思います.

もうひとつ気になったのが,経営面からこのような施業指針を将来にわたって続けることができるのかという点です.伐採前の入念な資源調査,きめ細やかな伐採技術,跡地の査察に加えてFSCの森林認証を取得しているため,Deramakot Forest Reserveでは平均的なサバ州の森林に加えてかなりのコストがかかっていることが容易に想像できます.ところが,ここで伐採された木材の値段は,他の林分とほとんど変わりません.

現状では収支はやや赤字気味のようですが,年度によっては利益がでることもあるそうです.これはおそらく,マレーシアがまだ開発途上国であるために,賃金が安く労働力が豊富であることが理由でしょう.しかし,このような状況はせいぜい10~20年程度しか続かないと思います.マレーシアの経済が成熟して賃金の上昇と高齢化が起こったときに,日本のように林業活動を維持できなくなるのではないかと不安を感じました.

この点について現地の責任者によれば,「我々は政府なのでコストは気にしない」という返答が返ってきて,少しびっくりしました.おそらくこれはモデル地区であるDeramakotだけを意識した発言と考えられるのですが,持続的な森林管理をサバ州やボルネオ島全土へ広めていくためには,経営面でも十分成立することが不可欠でしょう.この点についても今後検討してくことを期待したいと思います.

それと同時に,消費国側でも生物多様性の保全や資源の持続可能な利用に配慮した管理をした森林から伐採された木材に対して,相応の負担をしていくことが必要だろうと痛感しました.現状では,Deramakotのような先進的な管理をされた森林でも,違法伐採された森林でも木材の値段はほとんど変わりません.消費者として,自分たちも熱帯林の生物多様性の保全や資源の持続可能な利用に対して責任を持っていることを,実感しました.

伐採後の捕植
伐採計画図.作業道沿いの伐採対象木がすべてマッピングされている.
査察のために,伐根に個体のナンバーを残す.同じものが材にもついている.

2009年10月5日月曜日

社会復帰

昨日,マレーシア実習から帰国しました.移動を含めて12日間,熱帯林や野生動物を観察したり,いろいろな現場を視察してディスカッションをしたり,美味しいものを食べたりと,これ以上ないというくらい充実した日々を過ごしてきました.これも実習を企画してくださった方々,現地で受け入れてくださった方々,そして参加者した学生のみなさんのおかげです.この場を借りて,お礼を申し上げます.

さて,夢のような12日間が終わって,今日から社会復帰です.朝は早起きして久しぶりに温泉に入ってから出勤しました.午前中は今回の出張関連のもろもろの事務手続きで終わってしまいした.生命科学研究科のみなさんはGCOEの支援室でこまごまとした手続きの一部をまとめてやってもらえるようですが,私は一度農学研究科でもろもろの決済をしなければいけないため,旅行計画・旅行報告を農学研究科の様式で書きなおして,さらに支援室で取りまとめてもらっているはずのもろもろの書類の写しなどをすべて用意して,事務に提出しました.とても効率が悪いのですが,農学研究科の事務からクレームがついて書類を書きなおすよりはマシです.

さらに午後は富松さんと青葉山まで出かけて,関係者のみなさんと雲をつかむような話の続きをしました.これからますます忙しくなりそうです.

というわけで,社会復帰初日はとても慌ただしく過ぎました.マレーシア旅行の余韻はほぼ完全に吹っ飛んで,もうぐったりです.今日は早めに休んで,明日から気合いを入れなおして,たまっている仕事を片づけたいと思います.

2009年9月24日木曜日

環境の南北問題,人口爆発と少子化,老いていくアジア

ちょっと前の話になるのですが,環境科学研究科で生態適応GCOEのPEM講義「環境マネジメント概論」の前半がありました.環境科学研究科の講義と合同だったのですが,参加者の8割くらいが生態適応GCOEの関係者でした.

前半は生態適応GCOEのPIで環境科学研究科の藤崎成昭先生から「開発と環境」「経済発展・人口成長と資源・環境制約」「日本のODA」という3つのトピックで4コマの講義がありました.お話がやや冗長で理解するのが大変だったのですが,国際的な環境マネジメント,特にアジアを中心とする(現在の定義でいうところの)新興国と先進国のあいだの意識のギャップやその背景についての基本的な事項を確認できたのは収穫でした.ただし,そのギャップをいかに埋めるかという点については講義の中でも少し議論があったのですが,悩ましいところです.

後半は日本総研の大泉啓一郎さんによる,「老いてゆくアジア」と題した講義がありました.経済発展に伴う人口増加から少子高齢化・人口減少にいたるまでの過程において,産業構造や人口の移動がどのように変化していくか,そしてそれに伴う様々な問題を紹介してもらいました.

多くの人にとってはあまり実感がないと思うのですが,紹介されたデータによれば東アジアの新興国・途上国においても確実に少子高齢化は進行していて,あと十数年のうちに多くの国が高齢化社会・高齢社会に突入するすると予測されているそうです.それによって,経済成長の停滞や福祉などの問題が近いうちに起こるとのことなのですが,おそらくそれに気がついている人はあまり多くないと思います.まずは,そういう認識を持つことが重要なのかなと思います.

ちなみにこの内容は同名の著書により詳しく紹介されています.まだ詳しく読んでいないのですが,時間があるときにまた紹介したいと思います.

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上の文章,本当はずっと前に半分くらい書いて,それからしばらく放置していました.いつにも増して出来が悪いのですが,どうかご容赦ください.

今日からGCOEの実習でマレーシアに来ています.ネットが使えるときにでも随時様子をアップしていこうかと思います.

2009年9月11日金曜日

街の灯りが

一昨日は,横浜国立大学へ行ってきました.以前からずっと遊びに行きたいと思っていたのですが,知人が今月いっぱいで異動してしまうとのことだったので,2週間くらい前に急きょ行くことになりました.突然の訪問だったにもかかわらず対応してくださった皆さまに感謝です.

横国大ではまず,来年4月に筑波で行われる森林学会で企画することになったシンポジウムの打ち合わせをしました.「保全遺伝」というキーワードが先にあっただけで具体的なアイディアがほとんどなかったのですが,3人であれこれアイディアを出して,最終的には面白そうな企画になったと思います.週末までにプロポーザルを仕上げて,来週の前半には候補の方々に講演依頼を出したいと思います.

打ち合わせのあとは,玉木さんと私でセミナーをさせていただきました.夏休み中で,しかも集中講義があったにもかかわらず,20人くらいの方が集まってくださいました.いろいろと面白い質問もいただき,とても有意義な時間を過ごすことができました.

セミナーのあとは,新横浜で懇親会を開いていただきました.ここでもいろいろな話で盛りあがったのですが,あまりに盛り上がりすぎて夜行バスを逃してしまったのは失敗でした.横浜と東京が意外と遠いということを,痛感しました.この件では多くの方にご心配をおかけしてしまい,反省しています.

ちなみにバスを乗り過ごしたあとは,御徒町のいつも利用しているカプセルホテルで一泊して,翌朝の始発の新幹線で仙台へ戻りました.ちゃんとした布団で寝れてお風呂にも入れたので,夜行バスで帰るよりもよかったのかなと,ポジティブに考えることにしたいと思います.

2009年9月8日火曜日

牧場の朝に

今日は急ぎの仕事がたまっているので,早朝に出勤です.ちょうど今週は農学部の畜産系の学生実習をやっているのですが,今年の学生さんは朝型の人が多いようで,6時前なのに外でトレーニングをしたり,バイオリンの練習をしたりと,なかなかにぎやかです.

そんな学生さんたちを窓から見ていたら,トレーニングをしている学生さんたちの横で1頭の仔牛が散歩していました.脱走です.これは放っておけないので,とりあえず元の場所に戻すことにしました.でも,いつも仔牛たちがいる場所はいっぱいだし,どこに戻していいのかさっぱり分かりません.

30分くらい仔牛と一緒に途方にくれていたら,技術職員さんが出勤してきて仔牛を引き受けてくれました.結局仔牛をどこに戻したらいいのかその人も分からなかったので,もうしばらく散歩させておくことになったのですが….

というわけで,今日は早起きをしたのに仔牛のために思わぬ時間をとられてしまいました.でも,最近サボっていたブログのネタができたので,よかったのかなとも思います.

2009年9月7日月曜日

何もないけど

1週間ほどブログをサボっていました.ノリではじめたTwitterのほうも,飽きたのでサボっています.

先週は,はっきりいって何も成果のない1週間でした.仕事はたくさんあるのに,どれも進まずです.でも,今週は出張とかGCOEのイベントとかがあるので,何とか調子を取り戻さなければです.というわけで,未明にPCに向かってブログを書いています.手を動かせば,ちょっとは調子が戻るかなと思って….

ところで,昨日・今日はYouTubeでフルハウスを見ながら種子の処理をやっていました.小学生のときにNHKで放送されていた吹き替え版を楽しみに観ていたのですが,いま観てもとても面白いです.特にミシェルが.

YouTubeではほんの一部のエピソードしか観れないので,今度DVDでも借りてこようかと思います.

2009年9月1日火曜日

年度末は・・・

今日は9月23日から10月4日までマレーシアのボルネオ島で行われる,国際フィールド実習の説明会に出るために,仙台へ行ってきました.初めての東南アジア旅行で,しかも立て替えなければいけない旅費の一部がまだ確定していなかったりと不安はいろいろあるのですが,楽しみです.

さて,タイトルにもあるように,早くも年度末の予定が大変なことになってきました.まず,先週の金曜に4月2日から5日に筑波で開かれる森林学会のシンポジウムのコーディネータをやることになったのに加えて,3月4日に開かれるGCOE関連のイベントの準備も手伝うことになりました.7日から12日はマレーシア・クアラルンプールで開かれる森林遺伝関係の国際会議で発表する予定です.で,帰国して15日から20日は駒場で生態学会.

これらをマトモにやると大変なことになるので,ひとまず3月4日のイベントの実質的な仕事を,私ではなく何人かの学生(RA)で分担してやってもらうよう,お願いしました.これで1~2月の負担がだいぶ軽くなりました.RA(DCも?)のみなさんには,近いうちに何かしらのお知らせが行くと思います.

森林学会のシンポジウムのほうも,一緒にコーディネータをやってくださる玉木さんに加えて数人の方にサポートをお願いしました.とても強力な方々がバックアップしてくださることになったので,心強いです.

2009年8月29日土曜日

明りのない昼とその後

今日は農場の電源設備の点検のため,昼間に4時間ほど停電がありました.普通の大学は仕事への影響を少なくするするために休日にこういう作業をすると思うのですが,電気がなくても大半の農作業はできるし,うちくらいの規模の事業所ではそれなりの数の技術職員が停電中の監視や停電後の復旧作業にあたるので,こっちのほうがいいのかも知れません.

一方の研究員・学生ですが,停電中は当然パソコンもネットも使えず,明りもつかないので本や論文を読むことすらままなりません.というわけで,今日のお昼はみんなでご飯を食べてお茶を飲んで,まったり過ごしました.さらに私と数人の学生は,普段は行かない中山平方面の温泉へ行ってきました.よい身分です.

夕方,明りが回復してからは,富松さん先日の雲をつかむようなディスカッションの続きをしました.道のりは依然として険しいと,改めて感じました.

さらに夕方,筑波の津田さんからお電話を頂いて,来年度の森林学会で行うシンポジウムの企画or講演をお引き受けすることになりました.一応,テーマは「保全」ということにしてもらったのですが,ただの「保全」ではなく,もうちょっと最近のトレンドを加味した企画にしたいと思います.

2009年8月25日火曜日

雲をつかむような話とささやかな幸せ

今日は早朝から昼まで実験をして,午後は富松さん生態適応GCOE関連のミーティングのために仙台へ行ってきました.

ミーティングの目的は,来年の春に予定している国際ワークショップに関連して執筆を予定している総説論文の方向性を議論することです.この総説論文は国際ワークショップの招待講演者とGCOEのスタッフが中心になって文献調査・メタ解析・執筆を行うことになっているのですが,私を含めて4人の博士課程の学生も作業に参加させてもらえることになりました.せっかくの機会なのでいろいろ勉強させてもらいたいと思います.

国際ワークショップのテーマは「生態系の安定性・頑健性」ということなので,これに関してこれまでに得られている知見のレビューと将来の課題を議論すればよいわけです.ところが今回の国際ワークショップには,個体・個体群レベルからネットワーク・景観レベルまで,それぞれのスケールで起こっている現象を扱っている研究者が参加するので,それらを網羅するような具体的な切り口・トピックがなかなか思い浮かびません.そこで今回の総説論文では,様々なスケールで得られている知見を“統合”して,何か新しい知見が得られないかということになりました.いわば“レビューのレビュー”をしようというわけです.

では,どうやってそれを具体的に進めていこうかという話になるのですが,あまりにもテーマが大きすぎて,雲をつかむようなまとまりのない話が延々と続きました.だいたい上の文章を読み返してみて,自分でも何が言いたいのか分かりません(笑).しかし最終的にはいくつかいいアイディアがでて,なんとか次のステップには進めそうな気がしてきました.依然として雲をつかむような話ですが,つかもうとしている雲のおおよその形が見えてきたくらいの成果はあったと思います.10月から文献調査を開始するということなので,それまでには具体的な計画が立てられればと思います.

夕方にミーティングが終わってすっかりお腹が減ったので,帰りは何か美味しいものを食べようということになりました.道中2人であれこれ考えて,今回は古川の造り酒屋の建物をそのまま利用した醸室(かむろ)という飲食店街に入っている,ビストロ足軽というイタリア料理のお店に行くことにしました.酒蔵だった建物を改装した,20席くらいのとてもこじんまりとしたお店です.

黒板にあったおすすめの単品料理や石窯焼きのピザも魅力的だったのですが,せっかくなので(?)今回はコース料理を頂いてみることにしました.コースは魚介のカルパッチョ,若鶏とキノコのクリームスパゲティ,豚肩ロースと野菜の焼き物に加えてデザートという構成でした.どれもとても美味しくて,幸せな時間を過ごすことができました.

また近いうちに来たいと思います.

2009年8月18日火曜日

季節はずれの『これ論』ブーム

ここ最近,農場にいるM1の学生がこぞって,酒井さんの名著『これから論文を書く若者のために 大改訂増補版(通称:これ論)』を読んでいるようです.普通,学生が『これ論』を読むのは12月から2月の卒論・修論シーズンだと思うのですが,この時期に熱心に論文の書き方を勉強するのは(1)卒論を投稿論文にしようとしているか,(2)まだ卒論を書いていないのどちらかでしょう.

実際,(2)に当てはまる学生は数名いて,遅ればせながら論文とは何ぞやということを勉強しているようです.一方,すでに卒論を提出しているのに『これ論』を読んでいる学生もいて,なかなか勉強熱心で野心的な学生もいるものだな,と感心しています.いずれにしても,『これ論』はただ論文を書くだけでなく,論理的な文章の書きかたに関するとてもよい教科書なので,これはいいブームだと思います.

ただ残念なことに,学生が『これ論』を読んで,(不完全にせよ)論理的な文章を書こうとしているのに,それに対して有効な指導ができない人も教員の中にいるようです.そういう人はたいてい欲張りなので,一度に論理構成に加えて体裁・日本語の使い方の不備をすべて指摘するので,学生が指導されたことを反芻できずに,ただ赤を入れられたとおりに文章を書きなおすだけで終わってしまいます.

自分は学生を指導する立場でないので言いにくいのですが,もうちょっと余裕をもった指導ができないものでしょうか.せっかく時間とエネルギーをかけて文章を添削しているのに,もったいないことですよ,ホント.

ところで,『これ論』を読んだ数人の学生から,「『これ論』を読んでいると何だか富田さんに説教されてるような気分になります」と言われてしまいました.確かに,私は学部生のときから『これ論』のお世話になっていて,論理的な主張の展開の仕方と文章の書き方の多くを『これ論』に教わったと言っても過言ではありません.でも,自分で面倒を見ているわけでもない学生にこういうことを言われるとは….

自分でも気がつかないほど『これ論』に影響されているのでしょうか.とりあえず,今後はもうちょっとフランクな会話の割合を増やすように気をつけたいと思います.

2009年8月17日月曜日

新しいCDとTwitter

今日は前から気になっていたアーティストのCDを買いました.ソングスープというインディーズのアーティストなのですが,ソウルっぽくてとてもクールです.ボーカルのちょっと低めな声からのファルセットがきれいだし,リズムもかっこいい.

ちなみにこのアーティストは,私がよく行く川渡の居酒屋の「たけや」さんのマスターから教えてもらいました.意外なところにいい出会いがあるものです.

MySpaceで試聴できるようなので,もし興味があればチェックしてみてくださいね.

ついでに,ここ最近はやりそうなTwitterをはじめてみました.このブログはまとまった文章,Twitterは日ごろの散漫な出来事というように使い分けようと思います.

2009年8月16日日曜日

ふたたび新潟へ

先週末はお盆で新潟の実家に帰っていたのですが,今週末もまた新潟へ行きました.目的は先週来れなかった弟とお酒を飲むことです.仙台―新潟は高速バスを使えば8,000円くらいで往復できるので,気軽に行けてよいです.もっとも,昨日・今日の高速道路は大渋滞だったので,移動はしんどかったのですが….

当初,昨日の16:30には新潟駅に着く予定だったので,それからカフェで本を読みながら時間をつぶす予定だったのですが,渋滞のおかげで新潟駅に着いたのが17:45,お店の予約が18:00だったので,あわててタクシーに飛び乗ってなんとか間に合いました.

今回の会場は,なんとホテル日航新潟のビアガーデンです.弟が予約してくれたのですが,値段の高さにびっくりしてしまいました.

値段の分だけ,会場・料理ともすばらしかったです.昨日は天気がよかったので,信濃川と日本海が一望できるテラスが会場になりました.風が気持ちよくて,夕日がきれいでした.ビールを飲むのにあれ以上の環境はなかなかないのではと思います.料理は,ビュッフェ形式で20品くらいが出されました.どれも美味しかったのですが,特にローストビーフが美味でした.また機会があれば行きたいのものです.

帰宅してからは地元の友人を呼び出して1時くらいまで飲んだり,外で遊んだりしました.彼は今日も仕事だったようですが,大丈夫だったでしょうか.(…ごめん)

2009年8月10日月曜日

久しぶりの本屋と

今日は何も予定がないので,新潟(新潟の人は新潟駅周辺をこう呼びます)まで出かけて,駅裏に新しくできたジュンク堂で本を何冊か買いました.

私が新潟に住んでいた頃は,新潟駅周辺で専門書を扱っている書店といえば万代の紀伊国屋くらいでした.当時はまだ高校生だったのであの程度でも十分魅力的だったのですが,いま思えばちょっと物足りなかったかなと思います.

それが,新しく出来たジュンク堂は売り場面積が広いこともあって,専門書の品ぞろえがすばらしいです.仙台でもここまでの書店はたぶんないと思います(いい書店があったら教えてください).

とにかく,最近は便利になったものです.

広い売り場を物色して迷った挙句,今回購入したのはステレルニー & グリフィス著『セックス・アンド・デス―生物学の哲学への招待』とプリマック著『保全生物学のすすめ 改訂版』の2冊です.

このうち『セックス・アンド・デス―生物学の哲学への招待』のほうを駅の中のPRONTOでビールを飲みながら読みました.

傍からみれば,昼からビールを飲みながらピンクな本を読むなんて,とても堕落した青年に見えたでしょうが,中身は真面目な生物哲学の本です.もっとも,昼から1人でビールを飲んだ点については釈明のしようがないのですが…

今日はイントロダクションと第1章くらいまでしか読めなかったので,明日も引き続きどこかのカフェで読もうと思います.

2009年8月9日日曜日

企業と生物多様性(3/3):組織を動かす個人の力,考え方の多様性

2/3からのつづき)

意見交換会のあとは,同じビルの食堂で懇親会が行われました.ここでも上記のような議論があちこちで行われ,とても有意義な時間をすごすことができました.ここで何人かの方とじっくりお話をしてみて,企業の行動を決めるうえでの個人の力の影響力と,考え方の多様性の重要さに気付かされました.

私がお話をした企業の担当者の方は,よく勉強されてて,さらに人間的にも魅力的な方ばかりでした.今回参加された企業の多くは事業規模・従業員数ともにかなり大きい会社だったのですが,実際にその中で生物多様性の保全を担当している方はせいぜい数名~十数名程度でしょう.となると,今回の意見交換会に参加された各担当者の方が企業の方針決定に大きな影響を与えている,さらにはその方がいなかったらその企業はここまでの取り組みができなかっただろうと言っても過言ではないと思います.

逆にいえば,組織のトップでなくともアイディアと熱意を持った個人の力で大きな組織の方針を動かせる可能性がある,ということを意味しています.これは先月行われたGCOE主催の鼎談「白神山地の今昔 -世界遺産の保全のあり方」でも感じたことです.

また,今回の参加した企業はそれぞれのビジネスの形態や実際の取り組みに関わる担当者の方の考え方で,実に多様な取り組みを行っていました.生物多様性の保全にかかわる課題は実に多様で,その解決策も同様に多様であるはずです.

日本では生物多様性の保全は政府や地方自治体が主体となって行うケースがほとんどだと思います.行政は遂行能力・予算規模においては企業とは比べ物になりません.しかし,行政のやり方は関係者間の利害調整であるので,多様な考え方を“平均化”したような施策になってしまうことが多いのではないかと思います.このようなやり方では,生物多様性に関する多様な問題のごく限られた部分にしか取り組むことができないでしょう.

一方の企業は行政ほどの力はありませんが,それぞれが自分のビジネスに関連した多様な課題を抱えていて,それに対して各社の考え方・やり方で取り組んでいます.ということは,仮にほとんどの企業が自社のビジネスに関連する生物多様性の保全に取り組めば,行政が行うよりもはるかに多様な問題を解決することができるということになります.

そしてその多様性を生み出すのも,個人の力によるところが大きいと思います.似たような業態の企業同士でもそれに携わる人の考え方がまちまちなら,まったく別のアプローチで問題に取り組むこともあるでしょうし.

となると行政や研究機関は自分たちだけで問題を解決するというよりは,企業が自らの考え方で生物多様性の保全に取り組んだり似たような関心を持っている企業同士が協力できるような体制を整え,さらに全体的な指針を示すという方向性にシフトしていったほうがよいのかなと思います.

それと同時に,私たちのように恵まれた教育を受けている人間は,ただ知識を吸収するだけでなく自らが専門家として大きな組織を動かしていくのだ,ということを少し自覚したほうがいいのかなと思いました.また,生物多様性やその保全,さらには自然そのものに対する自分の価値観を確立しておくことも必要でしょう.

そういう気持ちを持ったことが,自分にとって今回の一番の収穫だったのかなと,この文章を書きながら感じています.

企業と生物多様性(2/3):生物多様性にどう取り組むか?各社のアプローチ

1/3からのつづき)

企業側の事例紹介では,原料調達先の熱帯林の保全から都市の生物に配慮した施工技術まで,それぞれの業態に応じた様々な取り組みが紹介されました.

まず気がついたのが,企業間での生物多様性保全活動の位置づけの違いです.原料調達先の生態系保全に取り組んだり,研究機関と協力して資源調査を行うといった,どちらかといえば自然生態系の保全に取り組んでいる企業は,短期的な自社の利益というよりはより長期的な視点から持続的な企業活動を目的としているように感じました.

一方,建設会社のように,建築物の設計において都市の生物に配慮した緑化・ビオトープ造成を提案したり,独自のチェックシステムや環境GISなどを用いて施工における生態系への配慮を行ったりという企業は,生物多様性の保全活動を自社の競争力として経営戦略の中に明示的に位置付けている印象がありました.

これらの2つのタイプでは,実際の取り組みの方法も異なっていました.生態系や資源の保全に取り組む企業は,企業が単独で取り組むケースはほとんどなく,NPO/NGOや研究機関などと共同で取り組みを行っていました.一部の企業は個別の取り組みだけでなく,業界全体としての生物多様性保全の規準づくりなどにも積極的に参加し,また情報交換も行っているようでした.

これに対して環境技術の開発に取り組む企業は,ほぼすべての取り組みを自社のみで行っており,情報交換などもあまり行っていないような印象を受けました.これは,環境技術を自社の競争力として位置付けているために自社の手の内をさらせないという事情があるようです.

ところが,緑化・ビオトープ造成のような都市における生物多様性保全においては,個別の施工ではなく地区全体の配置が重要となるため,似たような取り組みを行う企業が情報を交換できないことは,効果を最大に発揮できないことを意味します.

この問題は企業も認識しているようで,企業側からは「企業同士は直接共同できないが研究機関が中立的な立場で企業をまとめてほしい」「都市の生物多様性保全におけるマスタープランを行政・研究機関が中心となって出してほしい」と言った意見が議論のなかで出ました.

これに関連して研究者の側からは,都市における生物多様性保全の基本的な知見を蓄積し,マスタープランを議論する材料とするために,企業が持っている個別のデータを共有してメタ解析を行ったり,全国の事業所の敷地を利用して共通のデザインで実験を行ったりできないかという意見が出されました.

私も個別に既存の取り組みにおいても共通のデザインで生物相の簡単なモニタリングを行えないかということを提案しました.

企業と生物多様性(1/3):なぜ企業が生物多様性に取り組むのか?

一昨日は,生物多様性の保全に積極的に取り組む企業の集まりである企業と生物多様性イニシアチブ(JBIB)東北大学生態適応GCOEの意見交換会に出席するために,東京へ行ってきました.

企業が生物多様性に取り組む動機は様々で,表向きのモチベーションは一般消費者向けのPRだったりするのですが,究極的には持続的な企業活動にあります.というのも,多くの企業活動は「生態系サービス」と呼ばれる生物多様性の恩恵に直接的・間接的に依存しているからです.また市民の環境に対する意識が高まってきた近年では,生物多様性への配慮を欠いた企業活動は消費者や環境団体から反感を買うことにもなります.

このような背景から,持続的な企業活動のためには生物多様性の保全活動が重要であるといえます.

今回の意見交換会では,JBIBの会員企業のうち7社からそれぞれの取り組みを紹介していただき,それについて東北大学の研究者を交えて議論をしました.それぞれの企業の取り組みはいずれもすばらしく,大いに刺激を受けました.また,意見交換会・懇親会での議論を通じて,いろいろなことを考えました.

ちょっと長くなってしまうので,3回くらいに分けて意見交換会の様子を紹介したいと思います.

帰省

昨日から新潟に帰省しています.お盆前には川渡へ戻るので,昼間は一足先に墓掃除とお参りを済ませて来ました.

夜は,中学時代の友人に加えて当時の先生とお酒を飲みました.参加した友人のうちの何人かは帰省するたびに会っているですが,なかには中学を卒業して以来久しぶりに話をした友人もいました.お互い元気そうで,何よりでした.

飲み会ではお互いの近況などで盛り上がったのですが,司書・営業マン・オタク・主婦・無職など,本当にみなさんバラバラでびっくりしました.本当に,いろんな生き方があるものです.もっとも,みなさんからすれば私が一番変な仕事をしているんですけどね….

びっくりしたと言えば,みなさんと話をして全員の共通の話題がほとんどないということに驚きました.中学時代は部活やバンド,休み時間,スキー旅行,その他もろもろでいつも一緒に遊んでいたのですが,卒業して10年も経つとこうも変わってしまうのかと思いました.

普段はほとんど学生・研究者・技術者としかお付き合いがないので,こういう場はとても新鮮でした.と同時に,みなさんも自分もお互い遠いところに行ってしまったなと思うと,すこし寂しくもありました.

ただ,話はかみ合わなくても,お互いの中身があまり変わっていなかったのは幸いでした.みんな良くも悪くも相変わらずです,ホント.

魯迅は短編小説『故郷』のなかで幼馴染の小作人との断絶を嘆いていましたが,お互い相変わらずなので,『故郷』の主人公のような喪失感は感じませんでした.

たとえ「自分の道を走って」いようとも,彼らとのあいだに「一脈の気を通わ」すことを絶やさぬようにしたいものだと,いまこの文章を書きながらしみじみ感じています.

2009年8月4日火曜日

前半終了

昨日は,研究室の月例進捗報告があって,学生・PDがそれぞれの進捗状況と今月の計画を発表しました.

私は8月にはほとんど外出の予定がないので,ひたすら実験をするのみです.今月も目標を達成できるか微妙ではあるのですが,作業になれて少しずつスピードがあがってきているので,巻き返しを図りたいところです.

ところで,昨日からうちのボスが出張にでてしまって,今月と来月はほとんど川渡にいなくなります.というわけで(?),昨晩は今年度の前半の打ち上げという名目で,研究室で野外パーティをしました.斎藤さん・阿部さんによるトムヤムクンとイエローカレーに加えて,私が七輪で魚などを焼きました.

最近は屋外で飲み会というのがほとんどなかったので,とても楽しかったです.今度は,ビアガーデンとかにも行きたいものです.

2009年7月31日金曜日

また高校生と

今日も東北大学のオープンキャンパスへ行って,高校生相手に研究紹介をしてきました.

昨日は全体的に高校生の反応がよくなかったので,今日は話をする前に学年とかどういうことに興味を持っているのかをまず聞いてみて,それに応じて話の内容を変えることにしました.

それではじめて分かったのですが,今回のオープンキャンパスには地元のみならず近隣の県の高校から,かなりの数の1年生が参加していました.どうやら最近は,進路指導の一環で1年生のうちから大学を見学させて,早いうちから受験する大学・学部を考えさせるようです.

こちらは主に受験を控えた3年生がたくさん来るだろうと思って準備をしていたので,これは意外でした.昨日の日記で,最近は「自分が勉強したいことのイメージを持っていない高校生が多くなった」と書いたのですが,どうもこれは高校生の進路に対する意識が低いのではなく,むしろ私たちの時代よりも高校生が情報収集をするタイミングが早くなったためでした.

中学校を卒業してまだ半年しか経っていない生徒さんに「どういうことに興味を持っているの?」と聞いても答えられないわけです.ちょっと安心しました.

ただ,今回私は自分の進路に対して漠然としたイメージを持ちはじめた高校3年生を想定して話を準備をしたのですが,これでは中学校を出て間もない1年生にはかなり難しかったでしょう.もし来年以降に人出不足でオープンキャンパスの準備を担当することになったら,まだ知識が十分でない1年生でも興味を持ってもらえるように配慮をしなければいけないと,改めて思いました.

2009年7月30日木曜日

高校生と

今日は東北大学のオープンキャンパス初日でした.

うちの研究室が所属している学科では毎年,各研究室が研究内容を紹介するポスターを2枚と研究に関連する簡単な展示をすることになっています.今年は阿部さんがすばらしいポスターと種子のコレクションを用意してくれたので,例年よりも準備が楽で助かりました.やはり持つべきものは,頼れる先輩です.

さて,肝心の高校生の反応はというと,阿部さんが提供してくれた種子コレクションのウケはとてもよかったのですが,研究内容を短時間で簡潔に説明して,興味を持ってもらうのは難しかったなと感じました.まだまだ修行が足りないようです.

ところで,今日一日高校生たちと話をしてみて,私が高校生だった時よりも大学で自分が勉強したいことのイメージを持っていない高校生が多くなったなと感じました.もちろん高校生が大学のことについて考えること自体無理なのですが,農学部を受験しようと考えているなら,食糧問題・環境問題とかあるいはバイオテクノロジー関連といった具合に(たとえそれが的外れであっても)何かしら漠然とした興味を持っているのが普通だろうと思っていました.

幸いなことに東北大学の農学部は,入学時ではなく2年次に進級する段階で学科を選択するシステムになっているので,入学してからいろいろなものを1年間学びながら進路を決めることができます.なので,高校生の段階で何も考えていなくてもとくに支障はありません.

ですが,高校生の段階でいろいろなことに関心を持つことは,入学してから実際に自分の進路を決めたり,さらには情報に対する感受性を磨く上でも有益です.むしろ高校生の段階で何も考えてこなかった学生さんが入学してから1年のうちにどれだけのことを吸収して,それをもとに自分の進路を考えられるのか,少しだけ不安を感じました.

しかし,ブログに「いまどきの高校生は…」ということを書くこと自体,年をとってしまったなとしみじみ感じます….

2009年7月29日水曜日

リスとの攻防

今日は早池峰山のアカエゾマツ孤立個体群へ行ってきました.4年ぶりにアカエゾマツがまとまって開花したという情報を受けて急きょ様子を見に行ったのですが,下から見上げただけではどれくらい開花しているのかまではよく分かりませんでした.

それでも,何本かの木の根元にはリスが未成熟の球果を喰い散らかした跡が残っていて,それなりに結実が期待できそうだということは分かりました.秋に採取するサンプルが減ってしまうのは気がかりですが,とりあえずこれで今年の秋もいくらかはデータがとれそうで一安心です.

それにしても,どうしてリスは成熟する前に球果を食べてしまうのでしょうか.それは多分,アカエゾマツをはじめとするトウヒの類は受精直後から球果が肥大し始めて,この時期にはもう種子が成熟したものと同じくらいの大きさになっているからだと思います.むしろリスにしてみれば,未熟でやわらかい今の時期のほうが食べごろなのかも知れませんね.

しかし,貴重なサンプルを食べられてしまったほうは,このまま指をくわえて見ているわけにはいきません.そこでこちらは,リスが誤って落としてした食べられていない球果を拾い集めることにしました.この時期に落ちた球果の種子が成熟することはありませんが,中の胚はまだ生きています.これを解析することで,発生の初期段階と後期段階における近交弱勢の強さをそれぞれ推定できればいいかなと,漠然と考えています.

調査はいつもよりもだいぶ早く,3時前には終わりました.心配していた雨も大したことなく,久しぶりに山を歩けていいリフレッシュになりました.やはり生態学者はたまにはフィールドにでなきゃダメですね.

2009年7月28日火曜日

調査の前に

先週末に共同研究者の方から,早池峰山のアカエゾマツが開花したとの知らせをいただいたので,明日は急きょ調査地まで行くことになりました.今年はフィールド調査をする予定がなく油断していたので,明日の準備に手間取っています.何かまた忘れものをしそうで,心配です.

明日は開花状況の下見ということなので,調査地の見回りとサンプリングの段取りの相談になるかと思います.なので,体力的にキツイ仕事にはならないと思うのですが,午後から雨の予報が出ているのは気がかりです.どうか,あまり激しい雨にならないことを祈るばかりです.

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ところで,このブログに移ってから日記を書く頻度がやや減りました.理由は,従来の散漫なスタイルをやめて,他の人に見せることを意識した文章を書こうとするあまり,日常の些細な出来事を書きづらくなったからです.

あわせて,ここでレビューしたい時事ネタや本もいくつかあるのですが,今週は忙しくてまとまった時間がとれませんでした.週末までにはレビューを一つくらいは書きたいと思っています.

2009年7月25日土曜日

情報量規準を学ぶ

昨日・一昨日は,統計数理研究所で開かれた公開講座「赤池情報量規準と統計モデリング-実際の野外生物データからの入門-」に参加してきました.

赤池情報量規準(AIC)は統計モデルの良さに関する指標で,「AIC = -2 x (最大対数尤度) + 2 x (パラメータ数)」という式で定義されます.この値が小さいほどよいモデルであるということで,複数の候補からもっともよいモデルを選ぶときなどに使われます.このように定義がシンプルで使い方が簡単なことから,生態学でも多くの人がこの規準を使っているようです.

ところが,シンプルな定義の一方で,AICの数学的な側面はかなり複雑で,生態学の研究者が独力で教科書を読んで理解することはかなり難しいです.

簡単な最尤推定をするだけなら,天下り的にAICを使うだけでも十分なのかも知れません.しかし,ベイズ統計などの最尤法の枠組みを超えた統計手法を使う場合,AIC以外にもいくつかの情報量規準を使うことがあります.それらはいずれも異なる考え方のもとに提唱されているので,どれを選ぶべきなのか判断するためには情報量規準についての基本的な理解を持っていることが必要でしょう.

そういうわけで,もっとも広く使われているAICの数学的な背景をごく簡単に勉強できた今回の公開講座は,有意義なものだったと思います.今後は時間を作って,自分でも教科書を読んで勉強したいものです.

2009年7月22日水曜日

遠方より・・・

昨日はいきなり地元の友人が遊びに来たので,一緒にごはんを食べてお酒を飲みました.ちょうど酒屋さんの店頭に伯楽星の火入れ酒が並び始めたので,奮発して純米吟醸の一升瓶を買って,うちの部屋で2人で飲みました.おかげで今日は2時間ほど遅刻です.

しかし,遊びに来るなら休日とか,平日でもせめて数日前に言ってほしいものですね.

2009年7月20日月曜日

トキの本州飛来に思う

今日の夜,新潟の実家にいる父から「うちの近所にトキが来てて,今日は姿を見れたよ!!」という,とてもうれしそうなメールが来ました.ただ,生態学とは縁のない父には申し訳ないのですが,佐渡島に放鳥されたトキが本州に飛来してその地元が騒いでいるニュースを聞くたびに,少し残念な気持ちになります.

佐渡島では「およそ10年後(2015年頃)に小佐渡東部に60羽」(※平成16年1月29日付の計画)のトキが定着することを目指して何年もかけて水田の環境整備などの自然再生事業に取り組んでおり,その一環として昨年の9月25日に10羽が試験的に放鳥されました.そして残念ながら,今年は放鳥した5羽のメスがすべて本州に渡ってしまい,野外での繁殖はできませんでした.今年は昨年の倍にあたる20羽を放鳥して,佐渡での群れの形成と繁殖を試みるということなので,少しでもその試みがうまくいくこと,あるいは本当に野生復帰が可能なのかという判断をするためのデータが蓄積していくことを期待したいと思います.

ところで,本州に飛来した5羽がすべてメスだったことから,トキはメス分散ということなります.また,佐渡島に近い新潟県だけでなく,富山県や宮城県などでも姿が目撃されていることなら,単独でもかなり高い分散能力を持っていることが分かります.これらはトキを佐渡島に定着させることがいかに難しいかを物語っています.

本州に飛来したメスは繁殖に参加することなく,いずれ死ぬことになるでしょう.今年はメスを少し多めに放つ予定ということなので,今年の冬から来年にかけてまた何羽かのトキを本州で見ることができ,さらに多くの人を喜ばせることになると思います.しかし,その中でトキを放鳥した経緯や彼らの末路について考えたことがある人は果たしてどれいくらいいるのでしょうか.

うちの近くでトキを見かけたら,たぶん私も父のように興奮していろんな人に自慢するとは思います.しかし,少なくとも富山県黒部市のように自治体が飛来したトキに住民票を発行するというような浮かれた気持にはならないと思います.

本州に飛来するトキは,動物園のパンダのようなアイドルでも地方自治体のアピール材料でも決してありません.その背景には,トキの野生復帰と自然再生に向けたさまざまな議論・葛藤・努力,そしてトキを野生復帰させることのむずかしさがあります.彼らはいわば,それらの一連の問題の当事者であり象徴であるわけです.(その他にも本当にいろいろドロドロした問題があるのでしょうが,ここでは触れないことにします)

どうか,本州に飛来したトキを見かけた人は「珍しいものを見た」という感想だけでなく,彼らの野生復帰や自然再生について少しでも思いをはせて欲しいものです.夕方のローカルニュースでもちょっとくらいは触れて欲しいですね.

結婚式とその他もろもろ

昨日,大阪にて行われた大学時代の友人の結婚式に参加してきました.新郎新婦ともに大学時代の仲の良い友人でお互いの出会いから近くにいたので,感慨はひとしおでした.一緒に参加した大学の友人一同,挙式の時点から早くも涙です(笑).

披露宴では他の友人と3人で,スピーチをしました.新郎新婦の涙あり笑いありのエピソードを出席者のみなさんに紹介したのが,とてもウケました.新婦からは退場するときに開口一番,「あなたたちは大変なことをしてくれましたね」と言われてしまいました.明日,彼らが無事に出勤して仕事ができるか,少しだけ心配ですね.

それから行われた2次会では,久しぶりに会う友人・知人たちと楽しいひと時を過ごしました.披露宴ですでに満腹で,出された料理にほとんど手をつけられなかったのだけが心残りです.3次会は新郎新婦と少数の友人でゆっくり飲みながら,大学時代の思い出話に花が咲きました.皆には,たくさんお腹を触られました.

今回,卒業以来はじめて仲の良かった友人が集まったのですが,あらためて自分は大学時代にもいい友人に恵まれたと思いました.今度集まれるのはいつになるか分かりませんが,こういう付き合いを大事にしたいものです.

ちなみに一昨日は大阪に着いてからヒマを持て余していた出席者の友人の一人と飲みに行くことにしました.当初,梅田で待ち合わせていたのですが,お互い大阪駅周辺をまったく分かってなくて飲み屋さんを見つけられなかったので,なんと道頓堀まで行くことになりました.道頓堀でもなかなかいいお店が見つからず,あれこれ歩きまわって,最終的には法善寺通りのこじんまりとしたおでん屋さんに入ることにしました.ちょっと高かったのですが,美味しくて仕事も丁寧で,2人とも大満足でした.

2009年7月18日土曜日

大阪へ

昨晩,ご祝儀袋の表書きを何人かの方に見せたところ,「字のバランスが悪い」とか「名前がでかすぎ」とか言われたあげく,「自分でいいと思ってるならこれでもいいじゃないですか?」と,いろいろな酷評をいただいたので,結局また書きなおすことにしました.結婚式とかに使うご祝儀袋は,名前を書くところだけが別の短冊になっているので,いくらでもやり直しが効くのがいいですね.

何人かの方が丁寧に指導してくれたので,なんとか書くことができました.本当はまだ納得していないのですが,上を目指すとキリがないので,このへんで終わりにしたいと思います.

これからスピーチ原稿の最終チェックをして,それから急いで荷造りして仙台空港です.

2009年7月17日金曜日

週末にむけて

日曜に大阪で大学時代の友人の結婚式があるので,今日は仕事の合間にいろいろ準備をしています.

今回は他の友人2人と一緒にスピーチを一緒に頼まれているので,早朝は皆が送ってくれた草稿をとりまとめて編集する作業をしていました.3人分の原稿をつなげた時点で4400字もあって,これはいくらなんでも時間内に収まらないだろうと,まず内容を削る作業をしました.いずれのエピソードもすばらしくてどれを削るかとても迷ったのですが,最終的には3800字くらいには抑えることができました.これを3人で10分以内に話せばいいので,あとは練習するだけです.

スピーチと同じくらい悩ましいのが,ご祝儀袋の表書きです.日本人として恥ずかしい限りなのですが,私は縦書きの文字を書くのがとても苦手です.特に毛筆の字など,とても人に見せられません.しかし,ここはやはり自分で書きたいので,とにかく練習をすることにしました.下の写真がその成果です.本番の字もちょっとバランスが悪いのですが,そこらへんは後で微調整しました.あとは,なくさないようにこれを会場まで持って行くだけです.

日中はちょっと抜け出して,髪を切ってきました.ちょうどテレビで所さんの「1億人の大質問!?笑ってコラえて!」の再放送がながれてて,その中で「日本列島 結婚式の旅」という企画が放送されていました.さて,うちらもあれくらいうまくやれるだろうか,ちょっと緊張してきました.

明日は昼過ぎの飛行機で大阪入りです.大阪は高校のときに一度行ったっきりなので,とても楽しみです.ただ,給料日前であまり遊ぶ余裕がないのが残念です.

2009年7月16日木曜日

ブログに移りました

2005年5月から約4年間,自分のウェブページ(http://motoshi.tk/)でWeb日記をつけていたのですが,このたびようやく重い腰をあげてブログに移行することに決めました.

理由はいろいろあるのですが,Wikiよりもブログのほうがコメントやトラックバック,アフィリエイト,RSS/Atomフィードなどの機能が簡単に使えるというのが一番の理由です.これまではPukiWikiを使っていたのですが,本体やプラグインのメンテナンスが滞っていて,新しい仕様に対応できなくなることがありました(Amazonのアフィリエイトはそれで諦めました).

自分にもっと技術と時間があれば,全部自分で作ったほうが楽しいのでしょうが,こういうのは出来合いのものを使うのが一番です.事実,今のブログはすごく使いやすくて,しかも柔軟にカスタマイズできるので,とても感動しています.

というわけで,これからもいろいろ記事を充実させていきたいと思いますので,よろしくお願いします.