2009年8月9日日曜日

企業と生物多様性(2/3):生物多様性にどう取り組むか?各社のアプローチ

1/3からのつづき)

企業側の事例紹介では,原料調達先の熱帯林の保全から都市の生物に配慮した施工技術まで,それぞれの業態に応じた様々な取り組みが紹介されました.

まず気がついたのが,企業間での生物多様性保全活動の位置づけの違いです.原料調達先の生態系保全に取り組んだり,研究機関と協力して資源調査を行うといった,どちらかといえば自然生態系の保全に取り組んでいる企業は,短期的な自社の利益というよりはより長期的な視点から持続的な企業活動を目的としているように感じました.

一方,建設会社のように,建築物の設計において都市の生物に配慮した緑化・ビオトープ造成を提案したり,独自のチェックシステムや環境GISなどを用いて施工における生態系への配慮を行ったりという企業は,生物多様性の保全活動を自社の競争力として経営戦略の中に明示的に位置付けている印象がありました.

これらの2つのタイプでは,実際の取り組みの方法も異なっていました.生態系や資源の保全に取り組む企業は,企業が単独で取り組むケースはほとんどなく,NPO/NGOや研究機関などと共同で取り組みを行っていました.一部の企業は個別の取り組みだけでなく,業界全体としての生物多様性保全の規準づくりなどにも積極的に参加し,また情報交換も行っているようでした.

これに対して環境技術の開発に取り組む企業は,ほぼすべての取り組みを自社のみで行っており,情報交換などもあまり行っていないような印象を受けました.これは,環境技術を自社の競争力として位置付けているために自社の手の内をさらせないという事情があるようです.

ところが,緑化・ビオトープ造成のような都市における生物多様性保全においては,個別の施工ではなく地区全体の配置が重要となるため,似たような取り組みを行う企業が情報を交換できないことは,効果を最大に発揮できないことを意味します.

この問題は企業も認識しているようで,企業側からは「企業同士は直接共同できないが研究機関が中立的な立場で企業をまとめてほしい」「都市の生物多様性保全におけるマスタープランを行政・研究機関が中心となって出してほしい」と言った意見が議論のなかで出ました.

これに関連して研究者の側からは,都市における生物多様性保全の基本的な知見を蓄積し,マスタープランを議論する材料とするために,企業が持っている個別のデータを共有してメタ解析を行ったり,全国の事業所の敷地を利用して共通のデザインで実験を行ったりできないかという意見が出されました.

私も個別に既存の取り組みにおいても共通のデザインで生物相の簡単なモニタリングを行えないかということを提案しました.

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