2011年1月1日土曜日

新しいことを形にしていく年に

昨年の最初に,「新しい年を,背水の陣で迎える」というタイトルのエントリを書きました.そのなかで「2010年はこれから自分は何をしたいのか・すべきなのかを真剣に考える年になりそうです.」「今年は専門家としての自分のアイデンティティを確立することを目標にしたいと思います.」と書いたのですが,宣言通り昨年は,これから自分は何をしたいのか・すべきなのかを考え,そして自分のアイデンティティを見つけるためにいろいろな可能性に挑戦した年でした.

1~4月まではGCOE・PEM関連の企画の主催・お手伝いをいくつかこなしました.特に,オーガナイザーとして参加した環境機関コンソーシアム交流会では,準備の過程で多くの方に迷惑をかけ・助けてもらうことを通じて,いろいろ成長することができたかなと思っています.オーガナイザーとしては及第点には程遠かったと思いますが,イベント自体は何とか無事に終わらせることができました.また,4月には日本森林学会大会にて国際ワークショップをひとつ企画しました.これもはじめての挑戦でいろいろ大変だったのですが,国際センスをみがくうえでとてもいい経験になりました.

5~8月はD論の解析と論文書きに熱中していました.もともとほとんどのネタは学会で発表してたので,あとは図を書きなおして論文を書くだけだと思っていたのですが,論文を書くために改めて勉強してみると,これまでの解析のマズイところなどがたくさん見つかり,結局最初から解析をやり直すことになりました.また,7月に偶然,東京大学の岸野先生に論文を見ていただく機会があり,これまでほぼ独学でやってきたデータ解析のマズイところなどを丁寧に指導していただきました.査読の結果はまだ帰ってきていないのですが,何としてでもいいところに載せたいものです.

9~11月はPEMの一環としてイタリア・ローマの国際NGO「Bioversity International」でインターンシップをやってきました.仕事内容はFAOが2013年に発行する予定のレポート「State of the World's Forest Genetic Resources」のバックグラウンドとなるレビュー論文を執筆するプロジェクトのマネジメントと文献調査・プロポーザル書きなどです.幸いにもスーパーバイザーにめぐまれ,楽しく仕事をすることができました.また,多様なバックグラウンドをもった人たちがいる国際組織で働いてみて,組織マネジメントのやり方や同世代の人たちのキャリアに対する価値観など,目からウロコなことがたくさんありました.

また,夏から秋にかけて,来年度からの働き場所を探しはじめ,幸運にも最初に応募した研究機関で常勤の研究員として採用していただけることになりました.来年度からは,これまでの専門だった森林生態・保全遺伝だけでなく,生物多様性に関係する幅広い課題を扱うことになりそうです.これまでよりも環境マネジメントの現場に近いところで仕事をすることになるので,PEMで培ってきた経験が生かせればと思っています.

年末にはもう一つ,大きな決断をしました.これについては,今年の終わりくらいにでもここでご報告できればと思っています.

というわけで,昨年は自分自身の視野・能力・アイデンティティなどにとても大きな変化があった年でした.今年はそれらを少しずつ形にしていく年にできればと思っています.

2010年7月15日木曜日

保全の現場に共通するコンセプトはあるのか?

かなり長いあいだブログを書くのをサボっていました.もはや見に来ている人がいるか分かりませんが,今日はちょっと気が向いたので久しぶりにブログを更新しようと思います.最近は,博士論文を書くために保全生物学・遺伝学に関する総説論文や教科書を読みながら,自分の研究の意義についてどちらかと言えば批判的な見地から考えるということをしています.これからしばらく,読んだ論文の中から多くのみなさんに関心を持ってもらえそうなものを選んで,ここで紹介したいと思います.

第一弾として,ちょっと前に生物多様性に配慮した林業の研究などで有名なDavid LindenmayerさんがConservation Biology誌に,保全生物学に関する面白い記事を書いていたので,ここで紹介したいと思います.Lindenmayer and Hunter (2010) Some guiding concept for conservation biology. Conservation Biology, in press. doi: 10.1111/j.1523-1739.2010.01544.x.

1980年前後に,Michael Soulé,Bruce Wilcoxによって提唱されてから現在にいたるまでのわずかな数十年で,保全生物学はひとつの大きな学問領域を成すまでに成長しました.ところが,保全生物学の研究者や保全の現場に携わっている人の多くが認識している通り,保全生物学というのはその場限りの事例研究であることが多く,保全の現場に共通する知見があまり整理されてきませんでした.保全生物学は問題解決の学問なので個別の研究レベルではそれで構わないと思います.しかし,問題解決の大元になる考え方・手法などがバラバラだと,個別の取り組みが保全にとって有効であるかどうか判断ができなくなります.また,政策立案者も実際の意思決定をするときに何を基準にしていいのか分からなくなってしまいます.

この論文の筆者らは,保全の現場に共通するコンセプトとして以下の10点をあげています.また,Society of Conservation Biologyのウェブサイトではこれに関するコメント・ディスカッションを受け付けているようですので,興味のある方はぜひチェックしてもらえればと思います.

  • 1. 保全・マネジメントを成功させるためには,明確なゴールと目的が設定されていなければいけない.保全の目標は,ただ「その場所の生物多様性を保全する」というのではなく,具体的かつ測定可能でなければいけない.また,「ハビタット」「生態系」「野生動物」「閾値」「頑健性」などの用語は,たとえば「トラのハビタット」などのように具体的に定義しなければいけない.
  • 2. 生態系管理の目的は,生物多様性そのものの維持・回復であって,種数を最大化することではない.「種数」は生物多様性のマネジメントでよく使われる指標ではあるが,ある程度健全な生態系のマネジメントではこれを最大化することは適切ではない.すべての種の価値はイコールではなく,それぞれに異なった由来(在来or外来)・生態的な役割・脆弱性・経済的な価値などがあるからだ.
  • 3. 問題解決には,全体的なアプローチが必要である.生物多様性は遺伝子・種・生態系の異なるスケールで構成されているため,その管理もさまざまな時間的・空間的なスケールで行わなければいけない.特定の種と生態系全体のマネジメントは相補的に行われるべきである.また,社会経済的な要素も考慮すべきである.
  • 4. 多様なアプローチを導入することで,多様な環境を創り,失敗のリスクを軽減できる.生物多様性・生態系はとても複雑で不確実性が大きいので,自然のばらつきに収まる範囲で多様なマネジメントを行うことが現実的な解決策と言える.
  • 5. 自然のやり方を模倣することは有用であるが,万能ではない.自然撹乱を模倣することは有用であると考えられているが,きわめて複雑な撹乱レジームや大規模な撹乱を模倣することはできない.
  • 6. 状態ではなく原因に着目しよう,効果と効率を高めよう.その場しのぎの対処療法ではなく,生態系が劣化した原因を改善しなければ保全は失敗する.
  • 7. どんな種・生態系もユニークである,ある程度は.それぞれに合わせた評価・保全がなされるべきではあるけれども,特定の標徴種を抽出したり,異なる事例に共通する法則を見つけることは重要である.
  • 8. 生態系の閾値は重要であるが,すべて同じではない.生態系にはあるポイントを通りすぎると急激に状態が変化して,なかなか元に戻らなくなる「閾値」がある.ただし「閾値」に達する前にそれを予測するのは難しく,またそれらはすべての生態系に共通ではない.
  • 9. 種・生態系に致命的な影響をおよぼすのは,複数の要因の組みあせである.そして,特定の分野に偏った対策もまた種・生態系に負の影響をあたえることがありうる.
  • 10. 人間の価値観は多様で動的である.そして,それが保全への取り組みを決める.保全の取り組みが成功するか否かは,問題設定のやり方に依存する.そして,それらを決める人間の価値観は変わりやすいが,もっともコントロールしやすい.

個別の研究レベルでこれらのすべての原則をフォローすることは不可能でしょう.しかし,1.のようにもっとも基本的な要素でありながら,意外と多くの研究で論じられていない原則もあります.まずは,自分の研究の具体的なゴールは何なのか,もう少し考えてみたいと思います.

2010年3月6日土曜日

ターニングポイント「を」生きる

昨日は,仙台で東北大学生態適応GCOE「環境機関コンソーシアム」定例会がありました.企業・NGO/NPO・教員・学生あわせてのべ100名近い人が参加して,講演会・研究発表や環境機関コンソーシアムの今後の方向性などについて話し合いなどがありました.いずれの企画もとても盛況でした.また,私はこの企画をお手伝いさせていただいたのですが,いろいろ大変だったので,無事に終わってホッとしています.

講演会では,NPO法人「田んぼ」理事長の岩渕成紀さんとThink the Earthプロジェクトプロデューサーの上田壮一さんから,それぞれ刺激的な講演がありました.岩渕さんからは田んぼの生物多様性・ラムサール条約水田決議・水田文化の多様性・有機農法・環境教育など,田んぼのさまざまな側面についてお話をいただきました.特に生物多様性や有機農法に関連したお話については,ご自身の活動のなかでかなりのデータを収集されているようで,それらに裏打ちされたお話はとても説得力のあるものでした.

上田さんからは,「ソーシャルクリエイティブの可能性」という題で「伝えること」によって世の中をよくしていこうという一連の取り組みなどを紹介していただきました.「伝えること」を生業としているだけあって上田さんのお話は胸に残るものが多かったのですが,その中でも特に印象に残ったのが,「創造性は何のためにあるのか」という言葉でした.ただモノを作るだけでなく,そこに「創造性」を加えることで,今までとまったく違った価値を持ったものができる.そして,それによって周りの人間が幸せになれる.

物質的・経済的な側面に加えて社会や人間の福利など,モノの価値は多様化しています.いわばタイトルに引用した上田さんの言葉のとおり,私たちは「ターニングポイントを生きている」のです.そのなかで,自分の「創造性」を何のために使うのかということは,あるいはターニングポイントを生きる私たちが改めて考えてみなければいけないのかも知れません.

講演会ではゲストに圧倒されてしまった感はあったのですが,研究発表もかなり盛況でした.外部の人に聞いてもらうだけでなく,これまであまり交流がなかった内部の学生同士のあいだでも議論が盛りあがったようで,オーガナイザー冥利につきます.ちなみに,今回のイベントではアカデミアと企業・NGO/NPOのそれぞれの参加者に面白かったポスターに投票してもらい,もっとも多くのポイントを獲得した人にポスター賞と賞品を贈りました.受賞された方,おめでとうございます.私もポスターに参加すればよかったです.

イベントが終わってから夜行バスで東京に行き,今日は成田空港からクアラルンプールまで来ました.約半年ぶりのマレーシアは相変わらず熱いです.熱帯です.荷物を持って少し歩くだけで汗がダラダラでてくるのですが,その分だけビールが美味しかったです.明日は夕方まで自由時間なので,ちょっとだけ市内を観光してこようと思います.

2010年3月1日月曜日

樹木の保全遺伝学を考え直す

3月になりました.今週末からしばらく出張なので,その準備に追われています.しかし,昨晩は4月にある大きなイベントの準備をしていました.

4月2日から5日にかけて筑波大学で行われる第121回日本森林学会大会で「Conservation genetics of forest trees in the era of rapid environmental changes: from descriptions to applications」というシンポジウムを,岐阜県立森林文化アカデミーの玉木一郎さんと一緒に企画することになっています.

保全遺伝学とは,「遺伝的要因による絶滅リスクを最小にする」ことを目的とする保全生物学の一分野です.また,林業などの生物資源に関わる産業の立場から付け加えるとすれば,遺伝学の技術・知見を応用して「環境変化に対して生物資源の持続的な利用を可能にする」ことを目的とする資源管理学の一分野ともいえるでしょう.

ただし,私をふくめてこれまでに樹木の保全遺伝学にかかわってきた人がどれだけ保全の現場にコミットできたかというと,おそらくきわめて低いと言えるのではないでしょうか.これまでの保全遺伝学は集団の遺伝的多様性や遺伝的多様性に影響する要因については,それなりに知見を積み重ねてきました.しかし,保全の現場にそれを応用するためには「どうすれば遺伝的多様性を守れるのか?」「遺伝的多様性をどれだけ守ればいいのか?」「そもそお遺伝的多様性を守って何になるのか?」といった疑問に保全遺伝学の研究者は答える必要があるでしょう.

これらの背景をふまえて,もうひとつのブログに樹木の保全遺伝学の現在の論点について,かなり大雑把なドラフトを書いてみました.これをベースに今月は自分の考えを整理していきたいと思います.

2010年2月28日日曜日

気をとりなおして

先日,久しぶりに明るくない話題をブログに書いたら,多くの方から気づかいのメール・電話をいただきました.ありがとうざいます.思えば,2年前のちょうど今ごろ,ブログに川渡で研究していくことの辛さをつい書いてしまったところ,やはり多くの方から励ましをいただきました.こうやって多くの方がまだ気にかけてくださっている以上,それに応えるように頑張らねばです.

ところで,一昨日は出来たてチーズ&ワインを味わうセミナーが農場でありました.川渡地区の公民館の館長さんがワインアドバイザーの資格を持っていて,その方によるワインの基礎講座&6種類のワインのテイスティングが前半に行われました.ヨーロッパの典型的なワインをいろいろテイスティングして,ぶどうの品種や産地ごとの特徴を教えてもらいました.個人的には,イタリア・トスカーナのサンジョベーゼという品種を中心にした赤ワインが一番好みでした.フランス・ボルドーのワインはずっしりとした渋みと濃厚な味わいがたまらなかったのですが,ちょっと手が届かないなぁと….

後半は,農場で作っているチーズをピザとチーズフォンデュにしたものを,ワインと一緒に食べました.今年のチーズは私が知る限り一番の出来で,生で食べても美味しいのですが,ピザやチーズフォンデュにするとさらに格別でした.ちなみに今回料理を作ってくれた方は,本業は調剤薬局なのですが,そのサイドビジネスで料理の宅配(?)をやっておられるそうです.公民館の館長がソムリエだったり,薬局がシェフだったり,この町には不思議な人がたくさんいます.

惜しむらくは,グラスを洗っている最中にいろいろメモをしたワインリストをなくしてしまったことです.できるだけ早いうちに,またワインを飲まねばです.

2010年2月26日金曜日

それは,心を亡くすこと

最近,忙しいなかで,いろいろな失敗をやってしまったり,やらなければいけない仕事に手をつけられなかったりと,いろいろな人に迷惑かけ,また不愉快な思いをさせてしまいました.

今朝,一緒に仕事をしてくれている人から,私の言動に「相手を尊重していない」「軽ろんじていてる」という態度が表れていると言われてしまいました.もちろん自分ではそんなつもりはなかったのですが,自分自身のこれまでの行動を振り返ってみて,そういうことがたくさんあったなぁと反省しています.

「忙」という漢字は,「心」を「亡」くすと書きます.なので私はこれまで,努めて「忙しい」という言葉を使うことを避けてきました.しかし,それは忙しさのあまり心を亡くしている自分に目を背けていただけなのかも知れません.

昨日の記事に書いたマネジメントの話でいえば,「マネジメント」の手法についてはそれなりに研究していたつもりでした.その反面,メンバーとの信頼関係を築くというもっとも基本的な「心」の部分が,どうやら抜けてしまったいたようです.戦略があってもそこに「心」がなければマネジメントなんてできるわけがない,そういう当たり前のことすら忘れていました.

また,頼まれていた仕事が「心」から抜けていたり,やらなければ行けない仕事があるのに「心」ここにあらずの状態が続いていたり,おかげで多くの人に迷惑をかけてしまいました.

自分自身のメンタルヘルス管理としてここしばらく私は,どんなに仕事が溜まっていても,徹夜をせず,趣味の料理を作ったり,好きなお酒を飲んだりして「心」を休ませるようにしてきました.また,「心」が苦しいときは何人かの方に話を聞いてもらって,「心」を守るようにしてきまいた.しかし,「心」を休ませたり守ったりする一方で,私は「心」が必要な場面でそれを使うための努力を忘れていました.

この記事を読んで不快に思う人がいるかも知れません.また,ここにもっともらしい反省文を書いたところで,すぐにそれが直るわけでもないでしょう.しかし,文章を書くことは自分自身を見つめ直すことになります.また,いくつかの理由があって私の対人コミュニケーション能力には欠陥があるので,不特定に向けた演説や文章という形でしか自分をうまく表現できません.

また,このような私の有様にもかかわらず,あえて厳しいことを言ってくれる人がまだいるというのは,ありがたいことです….

2010年2月25日木曜日

失ったものは・・・

昨年10月くらいから,来週開催されるGCOEの環境機関コンソーシアム主催のイベントのオーガナイザーの仕事をしています.主な仕事は,GCOE支援室や何人かのRAのチームと一緒に講演会やRAのポスターセッションの企画で,私はそのマネジメントを担当しているですが,これがまったく上手くいかなくて途方にくれています.以前も一度,チームの運営で大きな失敗をして,今日もまた今までのマネジメントの悪さゆえにチームが崩壊するようなことがありました.

マネジメントの目的のひとつは組織で働く人の能力を生かすことであると,ピーター・ドラッカーは言っています.ところが,私のこれまでのマネジメントをふりかえってみると,プロジェクトの重要な事項は自分で決断して他の人にお願いするというような,トップダウン的なやり方がほとんどだったと思います.これでは一緒に働いてくれるチームの本来の能力を生かすことができないばかりか,メンバーのモチベーションを下げ,メンバーからの信頼も失うことになります.

ふりかえってみれば,メンバーからいろいろなフィードバックはあったはずなのに,なぜそれに気づくことができなかったのか,反省すべきことばかりです.あまりの落ち込みで,本来やらなければいけない仕事にまったく手をつけられなかったり,車に給油していてるときにガソリンが吹きこぼれて自分にかかっているのにしばらく気づかなかったりと,いろいろ失敗をしてしまいました.

反省すべきことを具体的に書いていたらキリがないのでやめておきますが,ひとつだけ原因をあげるとしたら,慌ただしい周囲とのやり取りや他の仕事の忙いなかで,チームの能力を生かすというマネジメントの本質を見失っていたことが原因なのだと思います.もしまだチャンスがあるなら,今回の失敗を教訓に少しでもチームのみんなが能力を発揮できるような体制を考えなければです.また,他の人の指揮下で働くときは,その人のマネジメントを研究して,参考にしたいと思います.

経験をつんだ後のほうが勉強できる科目は多い.マネジメントがその一つである.--ピーター・ドラッカー

2010年2月24日水曜日

国際フォーラムに参加してきた

21日から24日まで,GCOE主催の国際フォーラム「Ecosytem Management Applying to Ecosystem Adaptability Science」に参加してきました.今回は一応,招待講演者・GCOE関係者とポスター発表に応募してくれた少数の研究者に参加者を限定した非公開のイベントということで内容の詳細は書かないことにしますが,このフォーラムのテーマに関連した分野の最先端をいく刺激的な話が続いて,とても有意義な時間を過ごすことができました.

今回のフォーラムの特徴は,招待講演者もオーガナイザーも若手研究者が中心だったことです.おそらく,招待講演者の大半はポスドクかAssistant Professorだったと思います.それにもかかわらず,発表内容や議論のレベルはきわめて高く,大いに刺激を受けました.ただ,慣れない英語と自分があまりフォローしていない分野の発表が多かったせいで,マトモな質問を思いつけなかったが残念でした.

また,国内からの若手の参加者ともいろいろ話をして,自分が研究に対するモチベーションや自分自身に対する自信を失っていたこと,その結果としてどんどん同年代のトップからおいていかれていることを改めて思い知らされました.もう少し気合を入れて研究に取り組まなければと,気持ちを新たにしました.

シンポジウムが終わったあとは松島にエクスカーションに行き,さらに招待講演者の一組を連れて鳴子温泉に行きました.時差ボケで眠そうでしたが,それでもいろいろお話ができたことは大きな収穫でした.声をかけてくださった方々に感謝です.

2010年2月20日土曜日

カナダの森林は失われている(1/3):森林大国カナダは幻想だった・・・

またしばらくブログの更新をサボっていました.Twitterのせいもあるのですが,それ以上に1・2月は落ち着いて物事を考えるゆとりがなかったのだろうとも思います.しかし,幸いなこと(?)にPEMの課題で本を1冊読まなければいけないので,その記録をブログにまとめたいと思います.

今回読んだのは,森林大国カナダからの警鐘―脅かされる地球の未来と生物多様性という本です.著者のエリザベス・メイさんは法律の専門家である一方で,カナダ・緑の党の党首やカナダ・シエラクラブ代表として,精力的に環境活動を行っています.そのメイさんがこの本を通じて訴えているのは,カナダの森林の深刻な現状です.

カナダといえば,ロッキー山脈や地平線まで続く森林といった,豊かな自然のイメージを多くの人が持つと思います.あるいは,私のように森林関係の分野にいる人からすれば,豊富な資源量を誇る世界最大の森林・林業国という具合でしょうか.しかし,そのカナダの森林のほとんどが,略奪的な林業によって急速に失われており,このままでは近いうちにカナダの林業は崩壊する危機にあるという事実はあまり知られていないと思います.この本は,そのカナダの森林・林業の危機的な現状とそれを引き起こしている構造的な問題点を,これでもかというくらい詳細につづった衝撃的な一冊です.

資源量が豊富なカナダ南部の森林はすでにほとんどが切り尽くされ,現在はアクセスが困難で伐採後の回復が困難な北部の森林にまで,開発の手は広がっています.林業の機械化・効率化にともなって,大面積皆伐の割合が増えていることで,その影響はさらに深刻化しています.また,希少な野生動物の生息地や分水嶺など,本来保護区にすべき地域においても伐採が進行しており,生物多様性の多くがいま失われつつあります.また,多くの州では開発は先住民の居住地にもおよび,州政府・森林業界とのあいだではげしい対立が起きています.

ここまで開発を進めてしまうほど,カナダの森林産業は深刻な木材不足に悩まされています.事実,多くの州で長期的な木材の供給は質・量ともに低下しています.一部の州ではすでに工場が閉鎖されたり,隣国のアメリカ合衆国や他の州から木材を供給してもらうことを余儀なくされています.カナダの森林産業はすでに崩壊の兆しを見せているのです.

「2/3:森林業界が抱える構造的な問題」へ続く)

カナダの森林は失われている(2/3):森林業界が抱える構造的な問題

このような危機を招いた根底には,カナダの森林資源は無尽蔵であるという根強い幻想があります.大半の州では木材資源量の調査が十分に行われておらず,ありえない成長予測にもとづいて年間許容伐採量が設定されてきました.むしろ,州政府・科学者・森林産業はこの仮定を利用することによって,需要にあわせて年間許容伐採量を操作してきました.

一方,希少な野生動物の生息地や森林生態系を保護する制度は,多くの州で有効に機能していないのが実情です.政治的な圧力や森林業界からの要望によって,本来保護区に指定されるべき場所に何の規制もかからないばかりか,規制を解除することすらあるようです.また,希少種を保護する連邦法が近年制定されましたのですが,これを直ちに適応できるのは連邦政府が管轄するわずかな土地に限られており,依然として多くの希少種の生息地が開発の危機にさらされています.

また,州政府の林業に対する手厚い保護政策も,原因の一つと言えそうです.州によって仕組みは若干違うのですが,カナダの森林は基本的に公有林であり,州政府に土地のライセンス料と伐採権料を支払うとこで,企業は森林資源を利用することができます.ところが,このライセンス料・伐採権料は隣国のアメリカ合衆国と比較にならないくらい安く,再造林や森林管理署の運営に必要な費用をまかなえないことすらあるようです.それにもかかわらず,大規模な木材・パルプ工場を建設する際に道路などのインフラ整備を州が行うこともかつてはあったようです.最近では,ライセンス料・伐採権量を値上げするなど状況は改善しているようですが,依然として持続可能でない伐採を州政府が支援しているという状態は続いています.

このように,不確かな資源量予測,森林資源に関わるさまざまな利権,自然保護制度の不備によって,カナダはこれまでに原生林のほとんどを失ってしまったのです.この本の第2部ではカナダのそれぞれの州の現状と問題点がかなり詳しく紹介されています.

「3/3:グローバル経済,そして日本は・・・」へ続く)