2010年2月20日土曜日

カナダの森林は失われている(3/3):グローバル経済,そして日本は・・・

恥ずかしながら,この本を読むまで私はカナダの森林がここまで開発によって失われているという事実を知りませんでした.一昨年に学会で行ったケベック州で,エクスカーションで訪れたわずか数十haの保護区とその周辺のみすぼらしさにガッカリしたのですが,この本を読んでようやく納得がいきました.

この本を通じて描かれているカナダの森林の現状は,あまりにも悲観的です.この本の記述はプロパガンダ的な要素を多く含んでいるので,その内容のすべてが真実であるとは思っていませんが,いずれにしてもカナダの森林・林業が崩壊の危機に瀕しているのは事実でしょう.本書の最後には「総合的な森林管理」「先住民の参画」など,将来の展望がいくつか書かれているのですが,この本で紹介されている現状を考えるとその希望はとても儚く感じられます.この本を読みながら,どうやったらカナダの林業が持続可能であり続けることができるかと考えているのですが,その有効な答えは思い浮かびませんでした.

制度の不備・営利企業からの圧力・政治的利権など,カナダの森林が抱えている構造的な問題は深刻です.しかし,問題の元凶は依然として増加しつづけている木材に対する世界の需要にあります.最大の輸入国はアメリカですが,日本やEU,近年では中国もカナダから多くの木材や紙を輸入しています.東南アジアやアマゾンの熱帯雨林と同じく,カナダの森林もグローバル経済の脅威にさられているのです.海外からの需要がある限り,この問題を解決することはむずかしいでしょう.

メディアの報道や自然保護団体のプロパガンダの成果もあって,最近は熱帯雨林の危機については先進国の多くの企業や消費者が関心を持っていると思います.しかし,カナダをはじめとする北方林が同様の危機にあることが,どれだけ認知されているでしょうか.この問題の責任が,カナダだけでなく消費国の側にあることは明らかです.責任ある消費者として,カナダの森林の現状を認識することがまずは重要なのかと思います.

また,この問題は木材の80%以上を輸入に頼っている日本の資源戦略にも影響を与えます.現在,日本はカナダから多くの木材を輸入しています.手元にある森林・林業白書(平成20年版)の統計によれば,カナダ・アメリカからの輸入量は平成7年から平成18年にかけて減少していますのが,それでもなお輸入される木材の約1/3がカナダ・アメリカ由来です.近い将来,価格が高騰したり輸入そのものが不可能になったときに日本はどうすべきか,真剣に考えなければいけないでしょう.

ところでこの本,ひとつ難をつけるとすれば,記述が冗長でとても読みづらいです.もう少しあっさり書いてくれればいいのにと,読みながら感じました.

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