2009年8月9日日曜日

企業と生物多様性(3/3):組織を動かす個人の力,考え方の多様性

2/3からのつづき)

意見交換会のあとは,同じビルの食堂で懇親会が行われました.ここでも上記のような議論があちこちで行われ,とても有意義な時間をすごすことができました.ここで何人かの方とじっくりお話をしてみて,企業の行動を決めるうえでの個人の力の影響力と,考え方の多様性の重要さに気付かされました.

私がお話をした企業の担当者の方は,よく勉強されてて,さらに人間的にも魅力的な方ばかりでした.今回参加された企業の多くは事業規模・従業員数ともにかなり大きい会社だったのですが,実際にその中で生物多様性の保全を担当している方はせいぜい数名~十数名程度でしょう.となると,今回の意見交換会に参加された各担当者の方が企業の方針決定に大きな影響を与えている,さらにはその方がいなかったらその企業はここまでの取り組みができなかっただろうと言っても過言ではないと思います.

逆にいえば,組織のトップでなくともアイディアと熱意を持った個人の力で大きな組織の方針を動かせる可能性がある,ということを意味しています.これは先月行われたGCOE主催の鼎談「白神山地の今昔 -世界遺産の保全のあり方」でも感じたことです.

また,今回の参加した企業はそれぞれのビジネスの形態や実際の取り組みに関わる担当者の方の考え方で,実に多様な取り組みを行っていました.生物多様性の保全にかかわる課題は実に多様で,その解決策も同様に多様であるはずです.

日本では生物多様性の保全は政府や地方自治体が主体となって行うケースがほとんどだと思います.行政は遂行能力・予算規模においては企業とは比べ物になりません.しかし,行政のやり方は関係者間の利害調整であるので,多様な考え方を“平均化”したような施策になってしまうことが多いのではないかと思います.このようなやり方では,生物多様性に関する多様な問題のごく限られた部分にしか取り組むことができないでしょう.

一方の企業は行政ほどの力はありませんが,それぞれが自分のビジネスに関連した多様な課題を抱えていて,それに対して各社の考え方・やり方で取り組んでいます.ということは,仮にほとんどの企業が自社のビジネスに関連する生物多様性の保全に取り組めば,行政が行うよりもはるかに多様な問題を解決することができるということになります.

そしてその多様性を生み出すのも,個人の力によるところが大きいと思います.似たような業態の企業同士でもそれに携わる人の考え方がまちまちなら,まったく別のアプローチで問題に取り組むこともあるでしょうし.

となると行政や研究機関は自分たちだけで問題を解決するというよりは,企業が自らの考え方で生物多様性の保全に取り組んだり似たような関心を持っている企業同士が協力できるような体制を整え,さらに全体的な指針を示すという方向性にシフトしていったほうがよいのかなと思います.

それと同時に,私たちのように恵まれた教育を受けている人間は,ただ知識を吸収するだけでなく自らが専門家として大きな組織を動かしていくのだ,ということを少し自覚したほうがいいのかなと思いました.また,生物多様性やその保全,さらには自然そのものに対する自分の価値観を確立しておくことも必要でしょう.

そういう気持ちを持ったことが,自分にとって今回の一番の収穫だったのかなと,この文章を書きながら感じています.

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