2010年3月6日土曜日

ターニングポイント「を」生きる

昨日は,仙台で東北大学生態適応GCOE「環境機関コンソーシアム」定例会がありました.企業・NGO/NPO・教員・学生あわせてのべ100名近い人が参加して,講演会・研究発表や環境機関コンソーシアムの今後の方向性などについて話し合いなどがありました.いずれの企画もとても盛況でした.また,私はこの企画をお手伝いさせていただいたのですが,いろいろ大変だったので,無事に終わってホッとしています.

講演会では,NPO法人「田んぼ」理事長の岩渕成紀さんとThink the Earthプロジェクトプロデューサーの上田壮一さんから,それぞれ刺激的な講演がありました.岩渕さんからは田んぼの生物多様性・ラムサール条約水田決議・水田文化の多様性・有機農法・環境教育など,田んぼのさまざまな側面についてお話をいただきました.特に生物多様性や有機農法に関連したお話については,ご自身の活動のなかでかなりのデータを収集されているようで,それらに裏打ちされたお話はとても説得力のあるものでした.

上田さんからは,「ソーシャルクリエイティブの可能性」という題で「伝えること」によって世の中をよくしていこうという一連の取り組みなどを紹介していただきました.「伝えること」を生業としているだけあって上田さんのお話は胸に残るものが多かったのですが,その中でも特に印象に残ったのが,「創造性は何のためにあるのか」という言葉でした.ただモノを作るだけでなく,そこに「創造性」を加えることで,今までとまったく違った価値を持ったものができる.そして,それによって周りの人間が幸せになれる.

物質的・経済的な側面に加えて社会や人間の福利など,モノの価値は多様化しています.いわばタイトルに引用した上田さんの言葉のとおり,私たちは「ターニングポイントを生きている」のです.そのなかで,自分の「創造性」を何のために使うのかということは,あるいはターニングポイントを生きる私たちが改めて考えてみなければいけないのかも知れません.

講演会ではゲストに圧倒されてしまった感はあったのですが,研究発表もかなり盛況でした.外部の人に聞いてもらうだけでなく,これまであまり交流がなかった内部の学生同士のあいだでも議論が盛りあがったようで,オーガナイザー冥利につきます.ちなみに,今回のイベントではアカデミアと企業・NGO/NPOのそれぞれの参加者に面白かったポスターに投票してもらい,もっとも多くのポイントを獲得した人にポスター賞と賞品を贈りました.受賞された方,おめでとうございます.私もポスターに参加すればよかったです.

イベントが終わってから夜行バスで東京に行き,今日は成田空港からクアラルンプールまで来ました.約半年ぶりのマレーシアは相変わらず熱いです.熱帯です.荷物を持って少し歩くだけで汗がダラダラでてくるのですが,その分だけビールが美味しかったです.明日は夕方まで自由時間なので,ちょっとだけ市内を観光してこようと思います.

2010年3月1日月曜日

樹木の保全遺伝学を考え直す

3月になりました.今週末からしばらく出張なので,その準備に追われています.しかし,昨晩は4月にある大きなイベントの準備をしていました.

4月2日から5日にかけて筑波大学で行われる第121回日本森林学会大会で「Conservation genetics of forest trees in the era of rapid environmental changes: from descriptions to applications」というシンポジウムを,岐阜県立森林文化アカデミーの玉木一郎さんと一緒に企画することになっています.

保全遺伝学とは,「遺伝的要因による絶滅リスクを最小にする」ことを目的とする保全生物学の一分野です.また,林業などの生物資源に関わる産業の立場から付け加えるとすれば,遺伝学の技術・知見を応用して「環境変化に対して生物資源の持続的な利用を可能にする」ことを目的とする資源管理学の一分野ともいえるでしょう.

ただし,私をふくめてこれまでに樹木の保全遺伝学にかかわってきた人がどれだけ保全の現場にコミットできたかというと,おそらくきわめて低いと言えるのではないでしょうか.これまでの保全遺伝学は集団の遺伝的多様性や遺伝的多様性に影響する要因については,それなりに知見を積み重ねてきました.しかし,保全の現場にそれを応用するためには「どうすれば遺伝的多様性を守れるのか?」「遺伝的多様性をどれだけ守ればいいのか?」「そもそお遺伝的多様性を守って何になるのか?」といった疑問に保全遺伝学の研究者は答える必要があるでしょう.

これらの背景をふまえて,もうひとつのブログに樹木の保全遺伝学の現在の論点について,かなり大雑把なドラフトを書いてみました.これをベースに今月は自分の考えを整理していきたいと思います.