2009年11月16日月曜日

「仕訳け」られた・・・

先週の金曜日に,行政刷新会議の第3ワーキンググループにおいて,文科省の競争的資金(若手研究)の事業仕訳が行われ,「予算要求の縮減(予算計上見送り1名 予算要求の縮減10名(a 半額3名、b1/3縮減 3名、その他4名)予算要求通り2名)」という極めて厳しい評価が下されました.私を含めて多くの大学院生・若手研究者がお世話になっている特別研究員事業もこれに含まれています.(委員のコメントと評決は,http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov13kekka/3-21.pdfを参照のこと)

「子供手当の支給」「高等学校の授業料無料化」などの公約を掲げて先の選挙で民主党が政権をとってから,こうなる日が来るだろうとは思っていました.華々しい政策転換の一方で,高等教育の充実や科学技術振興への言及が民主党の公約にほとんど見られないからです.そして圧倒的多数の国民は民主党を選びました.これが国民の意思です.したがって,今回の事業仕訳で若手人材育成や先端研究が軒並み削減の判定を受けたのは,総選挙からの既定路線であると言えるでしょう.むしろ私たち科学者はこの事態に気付くのが遅すぎたくらいだと,自戒をこめて思います.

とりあえず,私たちは敗北しました.残念です.

国民に対して科学研究,特に基礎研究の意義や長期的な視座にたった人材育成の意義を訴えることを,これまで私たちはおろそかにしていました.もはや鼻で笑いたくなってしまうほど儚い言葉に聞こえてしまう「科学技術立国・日本」が,先人たちの数十年にも及び地道な基礎研究の積み重ねによって創られてきたとしても,それを国民が知らなければ基礎研究なんて道楽と一緒です.ましてその道楽に日本のインテリジェンスを投資するなんて言語道断.WG委員の誰かが指摘していたように,民間で活躍してもらったほうがよほどマシです.もし運よく私がこの世界にとどまっていたら,今回の教訓を胸にアウトリーチ活動とかをもうちょっと真面目にやろうと思います.

しかし,自分自身が「事業仕訳」のまな板に乗せられて裁かれる身になってみると,そう悠長なことも言ってられません.落ち武者の身においても,まだ命があるなら一矢報いねばなりません.午前中は急ぎの仕事を棚上げにして(…ゴメン),何人かの人とこの件について意見を交換していました.いろんな人のブログやjeconetでの細さんの投稿を皮きりとした議論を見ている限り,学会が連帯して何らかのアクションを起こすように動いているのだと思います.すでに手遅れかも知れませんが,何もしないよりはマシです.

評議委員のコメントを読んでいると,WGの中に若手研究者の実情や人材育成の意義を正しく理解していない委員が少なからずいることが容易に分かります.また,「若手研究者が安定して働き研究できる場所を見つけるための国の政策を若手にこだわらず再構築。」「若手研究者の問題は政治の問題でもあるので、十分な見直しが必要。」といった査定に関係ないコメントが前後の文脈を省略されて掲載されていて,ペラ一枚で「再構築」「十分な見直し」という言葉だけが恣意的に強調されているのではないかとさえ勘ぐってしまいます.

若手研究は大幅な削減判定を受けてしまいましたが,まだグローバルCOEグローバル30大学院GPなどの大型教育研究予算の査定が残っています.

この時点でWGの委員や与党に対して何らかのアクションを起こさなければ,残りの事業も同じような判定を受けてしまいます.時間がありません.

ちなみに委員の名簿(案:最終ではないです)は以下の通りです.(行政刷新会議第2回資料より)

  • 田嶋 要 (衆議院議員)
  • 蓮舫 (参議院議員)
  • 赤井 伸郎 (大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授)
  • 荒井 英明 (厚木市職員)
  • 小幡 純子 (上智大学法科大学院長)
  • 金田 康正 (東京大学大学院教授)
  • 伊永 隆史 (首都大学東京教授)
  • 高田 創 (みずほ証券金融市場調査部長チーフストラテジスト)
  • 高橋 進 ((株)日本総合研究所副理事長)
  • 中村 桂子 (JT生命誌研究館館長)
  • 永久 寿夫 (PHP総合研究所常務取締役)
  • 西寺 雅也 (山梨学院大学法学部政治行政学科教授)
  • 原田 泰 ((株)大和総研 常務理事チーフエコノミスト)
  • 速水 亨 (速水林業代表)
  • 藤原 和博 (東京学芸大学客員教授/大阪府知事特別顧問)
  • 星野 朝子 (日産自動車(株) 執行役員市場情報室長)
  • 松井 孝典 (東京大学名誉教授)
  • 南 学 (横浜市立大学エクステンションセンター長)
  • 山内 敬 (前高島市副市長/高島一徹堂顧問)
  • 吉田 誠 (三菱商事(株) 生活産業グループ次世代事業開発ユニット農業・地域対応チーム シニアアドバイザー)
  • 渡辺 和幸 (経営コンサルタント/(株)水族館文庫代表取締役)

今後しばらく民主党が政権与党の座にいて彼らの科学技術政策への考え方が変わらないなら,私は研究者を続けることができなくなるかも知れません.個人的には研究者を続けられないことをあまり深刻に考えてはいないのですが,若手の中には「梯子を外」されて路頭に迷ってしまう人も多数いると思います.何よりもこの時点で人材育成への投資をやめてしまうことは長期にわたって日本の科学技術分野における国際競争力を削ぐことになります.日本の科学技術の,そして自分自身の将来に少しでも不安や問題を感じているなら,何かアクションを起こしましょう.

ちなみにこの件に関しては,東北大学脳科学GCOEリーダーの大隅典子先生がコメントを募集しています.

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