2009年11月18日水曜日

企業のためのやさしくわかる「生物多様性」

昨日,青葉山の生協で企業のためのやさしくわかる「生物多様性」 (エコラボFILE)という本が出版されていたのを見つけたので,とりあえず買ってみました.

生物多様性というと,まだ私たち生態学研究者が使っているようなイメージがあるのですが,この本の著者はいずれもビジネス関連の方です.自然科学の研究者にはない切り口で書かれているので,とても興味深く読みました.

さて,日本でもここ数年,生物多様性への取り組みへの重要性が一部の先進的な企業に認識されてきて,具体的な取り組みも始まっています.来年名古屋で開催される,第10回生物多様性条約締約国会議(CBD-COP10)に向けて,この動きは他の企業にも急速に広がっていくと思われます.

ただ,いくら流行りだからとか社会からのニーズがあるとはいえ,「生物多様性」という言葉すら聞いたことがない企業がいきなり具体的な取り組みをはじめるのは無理があります.コンサルティング会社に丸投げしたり,環境NPOにお金だけ出すのも一つのやり方ではあります.しかし,企業が生物多様性に取り組む本質は,企業が依存している生態系サービスを維持と取り組みによって社会から信頼を得ることにあります(これについてのレポートはここを参照).したがって,企業が生物多様性に取り組むためには,自らの事業と生物多様性・生態系サービスとの関わりを認識することと生物多様性の価値を認識することが不可欠です.

この本は,具体的なデータ・事例を通じて,企業が多様性に取り組む意義,生物多様性と生態系サービスの現状,生物多様性とビジネスの関係などをとても分かりやすく解説しています.特に後半の「ビジネスとどうつながっているのか」という章では,規制やビジネスへのリスクだけでなく,生物多様性をどうビジネスのチャンスにするかという点も書かれていて,非常に興味深いです.日本企業の先進的な事例が紹介されているのいいと思います.

一方で,環境省も生物多様性民間参画ガイドラインを今年の8月に策定し,公表しています.基本的な内容はこの本と同じなのですが,背景が長いわりに具体的な取り組み指針が少ないなど,記述がアンバランスなように感じていました.このガイドラインは,生物多様性に関するものとしては経済界・自然保護団体・科学者の話し合いと合意によって書かれたはじめての文書なのですが,生物多様性に関する理解が十分に浸透していない現状では合意が難しい部分が多かったのでしょう.

日本ではまだ生物多様性の価値・意義が十分に理解されているとは言えませんが,今後急速にニーズが高まっていくことはほぼ間違いないでしょう.そのためには生物多様性に関する情報を充実させていくとと,様々な立場の人が議論を重ねていくことが不可欠です.この本がその先駆けとなることを期待したいと思います.

1 件のコメント:

  1. よさげな本をありがとう。ぜひ読んでみます。

    先日の仕分けのなかでの『ご指摘』にもあるとおり、
    民間へのポスドクの雇用などが求められてくる中で、
    もし、『生き物・生態系』などのキーワードが少しでも
    関連する企業に行きたいと思うのであれば、
    自分のやっていることなどをあいてにアピールする上でも
    必読そうな気がします。

    またね。

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