2010年2月20日土曜日

カナダの森林は失われている(2/3):森林業界が抱える構造的な問題

このような危機を招いた根底には,カナダの森林資源は無尽蔵であるという根強い幻想があります.大半の州では木材資源量の調査が十分に行われておらず,ありえない成長予測にもとづいて年間許容伐採量が設定されてきました.むしろ,州政府・科学者・森林産業はこの仮定を利用することによって,需要にあわせて年間許容伐採量を操作してきました.

一方,希少な野生動物の生息地や森林生態系を保護する制度は,多くの州で有効に機能していないのが実情です.政治的な圧力や森林業界からの要望によって,本来保護区に指定されるべき場所に何の規制もかからないばかりか,規制を解除することすらあるようです.また,希少種を保護する連邦法が近年制定されましたのですが,これを直ちに適応できるのは連邦政府が管轄するわずかな土地に限られており,依然として多くの希少種の生息地が開発の危機にさらされています.

また,州政府の林業に対する手厚い保護政策も,原因の一つと言えそうです.州によって仕組みは若干違うのですが,カナダの森林は基本的に公有林であり,州政府に土地のライセンス料と伐採権料を支払うとこで,企業は森林資源を利用することができます.ところが,このライセンス料・伐採権料は隣国のアメリカ合衆国と比較にならないくらい安く,再造林や森林管理署の運営に必要な費用をまかなえないことすらあるようです.それにもかかわらず,大規模な木材・パルプ工場を建設する際に道路などのインフラ整備を州が行うこともかつてはあったようです.最近では,ライセンス料・伐採権量を値上げするなど状況は改善しているようですが,依然として持続可能でない伐採を州政府が支援しているという状態は続いています.

このように,不確かな資源量予測,森林資源に関わるさまざまな利権,自然保護制度の不備によって,カナダはこれまでに原生林のほとんどを失ってしまったのです.この本の第2部ではカナダのそれぞれの州の現状と問題点がかなり詳しく紹介されています.

「3/3:グローバル経済,そして日本は・・・」へ続く)

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