2009年10月6日火曜日

持続可能な熱帯林施業

9月23日から10月4日まで,生態適応GCOEのPEMプログラムの国際フィールド実習で,マレーシア・ボルネオ島(サバ州・サラワク州)へ行ってきました.天然林施業の現場を視察したり,ジャングルで動物や植物を観察したり,現地の行政や企業を視察したりと,盛りだくさんの12日間でした.本当は現地で逐次ブログを更新しようと思っていたのですが,ネットが使えなかったり,コースワークやディスカッションで忙しかったりでできなかったので,レポートの下書きを兼ねて数回にわけてここで様子を報告したいと思います.

実習の前半では,まずサバ州における森林管理指針を学び,持続可能な森林施業の現場を視察しました.今回訪問したDeramakot Forest Reserveはサバ州政府が管理している恒久的な森林保護区(Permanent Forest Reserve)の中でも,持続可能な森林施業体系の構築のためのモデル地区として,ドイツの協力のもとで先進的な森林管理が行われています.それらは,日本はもちろん,欧米を含めた先進国の主要な天然林施業指針よりもさらに生物多様性保全と持続可能な森林施業に配慮していると感じました.

具体的には,伐採が行われる地区では,まず作業道に沿ってすべての伐採対象木(DBH>60cm)について毎木調査とGPSによるマッピングが行われます.その際,オランウータンが利用する樹種や突出木は除外されます(これにもかなり細かいガイドラインがあるようです).伐採率は蓄積のせいぜい数パーセント程度であるとのことでした.伐採・搬出作業においても,作業道では土壌流出や踏み固めの影響が最小限になるような配慮がされ,傾斜が急な個所では架線集材が行われます.伐採後は現地の労働者が森林官が決めた施業方針に沿って作業を行ったかどうか査察が行われます.これらの現状から判断する限り,Deramakotの森林施業指針は生物多様性保全や持続的な資源の利用という観点からきわめて優れていると感じました.

ただし,これまで見てきた日本の森林の現状を思い出して,いくつか気になったこともありました.

まず,Deramakot Forest Reserveの森林施業指針自体は優れているものの,伐採跡地の長期的なモニタリングが不十分であると感じました.私が知る限りですが,北海道の天然林の場合,弱度の択伐は林分の外見や蓄積にはほとんど影響を与えないのですが,地表の環境の変化によって更新がうまくいかなくなったり,大きい個体を選択的に伐採することによって蓄積は変わらなくても個体サイズが小さくなっていくという,林分の“劣化”が起こります.熱帯林の場合はいろいろ事情が違うのだとは思いますが,ここで行われている施業指針が本当に将来の林業生産や生物多様性への影響が少ないのか,より長期的なスパンで検証してほしいものだと思います.

もうひとつ気になったのが,経営面からこのような施業指針を将来にわたって続けることができるのかという点です.伐採前の入念な資源調査,きめ細やかな伐採技術,跡地の査察に加えてFSCの森林認証を取得しているため,Deramakot Forest Reserveでは平均的なサバ州の森林に加えてかなりのコストがかかっていることが容易に想像できます.ところが,ここで伐採された木材の値段は,他の林分とほとんど変わりません.

現状では収支はやや赤字気味のようですが,年度によっては利益がでることもあるそうです.これはおそらく,マレーシアがまだ開発途上国であるために,賃金が安く労働力が豊富であることが理由でしょう.しかし,このような状況はせいぜい10~20年程度しか続かないと思います.マレーシアの経済が成熟して賃金の上昇と高齢化が起こったときに,日本のように林業活動を維持できなくなるのではないかと不安を感じました.

この点について現地の責任者によれば,「我々は政府なのでコストは気にしない」という返答が返ってきて,少しびっくりしました.おそらくこれはモデル地区であるDeramakotだけを意識した発言と考えられるのですが,持続的な森林管理をサバ州やボルネオ島全土へ広めていくためには,経営面でも十分成立することが不可欠でしょう.この点についても今後検討してくことを期待したいと思います.

それと同時に,消費国側でも生物多様性の保全や資源の持続可能な利用に配慮した管理をした森林から伐採された木材に対して,相応の負担をしていくことが必要だろうと痛感しました.現状では,Deramakotのような先進的な管理をされた森林でも,違法伐採された森林でも木材の値段はほとんど変わりません.消費者として,自分たちも熱帯林の生物多様性の保全や資源の持続可能な利用に対して責任を持っていることを,実感しました.

伐採後の捕植
伐採計画図.作業道沿いの伐採対象木がすべてマッピングされている.
査察のために,伐根に個体のナンバーを残す.同じものが材にもついている.

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